意識高い系ブックレビュー

「ソクラテスの弁明」は人生の指針になる愛すべき一冊

ソクラテスの弁明

世の中には色々な哲学があって、どれもこれも正しいように聞こえる。ちょっと本を読み始めると、その本に書いてあることが全て正しいように感じられて、「これが私に追い求めていた真実だ」なーんてお気楽な発想にいきついてしまうのが私だ。

だけれども、「ソクラテスの弁明」で語られていることは、心の底から真実だと思っている

この本は、今から2400年ほど前のある裁判の記録である。ソクラテスという人間が裁判にかけられ、その弁明のスピーチをするという流れだ。基本的に全てソクラテスの独白であり、プラトンをはじめとしたソクラテスの弟子たちが書き起こした、ということになっている。

ある程度は創作が入っているかもしれないが、基本的にはノンフィクションである。

有名な「無知の知」が語られているのも本作だ。

短く、さっと読める一冊なのでぜひおすすめしたい。

この本はこんな方におすすめ

  • さっと読めるけど、深い本が好きな方
  • 正義とは何か、知識とは何かというテーマが好きな方
  • 死について偉大な哲学者はどう考えていたのかを知りたい方

ブックデータ

  • ソクラテスの弁明・クリトン
  • プラトン(著)
  • 久保 勉(訳)
  • 文庫本 135ページ
  • 1964年
  • 岩波文庫
ソクラテスの弁明・クリトン(プラトン) (岩波文庫)

ソクラテスの弁明・クリトン(プラトン) (岩波文庫)

プラトン
572円(11/24 07:04時点)
発売日: 1964/11/23
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無知の知とは何か

ソクラテスは、今から2400年以上前にアテナイという街に住んでいた哲学者である。

そこで「もっとも頭が良いものは誰か」という予言が行われ、その結果として「ソクラテスである」という結果が出た。

・・・彼はかつてデルフォイにおもむき、次の如き問に対して神託を求むるの大胆を敢えてした・・・即ち彼は、私[ソクラテス]以上の賢者があるか、と伺いを立てたのである。ところがそこの巫女は、私以上の賢者は一人もないと答えた。
本書 p.23より

その予言を聞いたソクラテスは、なぜ自分がもっとも頭がよいものなのか、と不思議に思い、旅に出る。

そしてソクラテスはやがて気づく。自分は世の中の多くのことについて答えを持ち合わせていない。しかし、ソクラテスは自分が世の中の多くのことについて知らないということを「知っている」。それ故に彼はもっとも頭が良いのだ。

彼と対談中に私は、なるほどこの人は多くの人ぶとには賢者とみえ、なかんずく彼自身はそう思い込んでいるが、しかしその実彼はそうではないという印象を受けた。それから私は、彼は自ら賢者と信じているけれどもその実そうではないということを、彼に説明しょうと務めた。
その結果私は彼並びに同席者の多数から憎悪をうけることとなったのである。しかし私自身はそこを立ち去りながら独りおう考えた。
とにかく俺のほうがあの男よりは賢明である、なぜといえば、私達はふたりとも、善についても美についてもなにもしっていまいと思われるが、しかし、彼は何も知らないのに、何かを知っていると信じており、これに反して私は、何も知りもしないが、知っているとも覆っていないからである。されば私は、少なくとも自ら知らぬことを知っているとは思っていないかぎりにおいて、あの男よりも智慧の上で少しばかり勝っているらしく思われる。
本書 p.24より

無知の知というのは、自分は無知である、つまり何も知らないということを知るということである。

ソクラテスは、結局何も知らないソクラテスが一番賢いという予言が降りたのは、つまりは人に智慧はほとんどないということを教えるためなのだと信じるところになった。

無知の知ははじまりにすぎない

これはソクラテスの弁明のほんの冒頭の部分に過ぎず、この点を確かめてからソクラテスは演説を展開していく。だから実はソクラテスの弁明といえば無知の知と思われるかもしれないが、始まりに過ぎない。とはいえ、この考え方がインパクトがあるというのは確かだろう。

私が一番驚かされるのは、今から2000年以上も前のことなのに、ソクラテスのロジックに組み立て方やものの考え方が今も新鮮に、そして非常に効果的に感じられるということだ。

心に響くと言うか、ガツンとくる文章や思想は何年経っても色褪せないと痛感させてくれる。

私達は今、素晴らしいテクノロジーに囲まれて生活している。数千年分の人間の智慧が結晶化した社会にいるはずだ。それでもなお、ソクラテスの雄弁さが際立って見えるのはなぜだろうか。私達はあるいは、科学的には発達したものの、精神的には殆ど変わらず、未熟なままなのではないだろうか

今なおソクラテスから学べるところは多く、彼の発言を私は深い尊敬の念を持って受け入れている。ソクラテスは何を考え、どうして死んでいったのか。それがこの2000年代でも財産として語り告げるのは、恐ろしいことではないだろうか。

ソクラテスは死ぬことをどう捉えたか

ソクラテスが死刑になったことは有名である。この「ソクラテスの弁明」の裁判の後、彼は有罪となり、死刑に処される

なにゆえ彼が裁判にかけられ、なぜ弁明をしたにも関わらず死刑となったのかは、実際に読んで確かめてもらいたい。

この本の第二部である「クリトン」にもソクラテスの死への考えが載っているが、「ソクラテスの弁明」にある次の二つのくだりが私は好きだ。

また実際戦場においてすら、武器を投出して追撃者に哀願しつつ縋りつけば、死を脱れるくらいは容易に出来る場合が多いことは明らかである。だからどんな危険に際しても、もし人がどんな事でもしたり言ったりするつもりでさえいるならば、死を脱れる方法はなお他にいくらでもあるのである。
否、諸君、死を脱れることは困難ではない、むしろ悪を脱れることこそ遥かに困難なのである。それは死よりも疾く駆けるのだから
本書 p.63より

けだし、諸君にしてもし人々を殺すことによって、諸君の正しからざる生活に対する世人の批議を、阻止し得ると思うならば、諸君は誤っている。
思うに、この遁げ方は、成功もむずかしくかつ立派でもない。最も立派で最も容易なのは、他を圧伏することではなくて、出来得るかぎり善くなるように自ら心掛けることである。
本書 p.65より

ソクラテスは彼自身が無実であり、また彼にかけられた嫌疑は非常に不合理なものであったことはわかりきっている。だが彼は法の支配を信じ、自らを裁判に委ねて、その正義を最後まで貫き通させるために死んでいった

なぜ? そんなことに意味があるの? 悪法もまた法なりはおかしいのでは
と思うかもしれない。というか、私は未だにこれに悩む。

システムやフレームワークとしての正義を考えるのか、それとも各行為単位での正義を考えるのか。全体としての和を考えるのか、個別具体的な正義をアドホックに考えていくのか。それはおそらく永遠のテーマだし、私がどうこう言えることではない。

だが紀元前400年頃に挙げられたこの問題について、私達が今なお頭を悩ませているということは、ソクラテスの考える正義を今なお議論する十分な余地があり、それだけに偉大な書物なのだと思うべきではないだろうか

ソクラテス自身とは仲良くないかも

この本は大好きだが、私はソクラテス自身とは仲良くなれないだろう。みなさんもこの本を手にとって読んでみると、「なんともいけすかねぇやつだな」と思うかもしれない。

アテナイ人諸君、騒がないでいただきたい。私の言うところを妨げずに、傾聴するようにお願いしたことを忘れずにいていただきたい。思うにそれを傾聴するのは、諸君の利益となるであろうから。
本書 p.45より

どうだろうか、相当に煽ってくる感じではないだろうか。

こんなおじいさんが目の前で演説し見事なロジックを組み立てていたら「ぐぬぬ・・・」となるに違いない。思うに死刑になった理由もそこにあるのでは・・・?

ともかく、アテナイの市民を(リスペクトしつつ)慇懃無礼にディスっていくのは痛快だ。これはある種ソクラテスだからこそ為せる技であり、そう思ってみれば「市民を堕落させる」という嫌疑はあながち間違っていないのでは・・・?となる。

意識高い系の端くれとして、個人的には強く惹かれるものがある

私もブログで「諸君」なんて言ってみようかな。

まとめ コンパクトな本に、ぎゅっと濃縮された正義の議論

「ソクラテスの弁明」は70ページ程度の短い作品だ。裁判での演説を文字に起こしたという体なので、そんなに長くなるわけがない。

とはいえ、そのコンパクトさに詰まっているのは溢れんほどの魅力的な議論だ。みんなが知っている無知の知の話からはじまり、法とは何か、国家とは何か、智慧とは何か、そして正義とは何かと次々とソクラテスの考えが溢れ出てくる。

それは2000年以上経った今でもなお色褪せることがない、宝物のような作品だ。何かしら、感じるものはあるだろう。

ただ注意したいのは、私が購入した岩波文庫版は訳が少々古く、言い回しがどことなく古臭くて難解な箇所がある。読めないわけでは決してないが、より読みやすいバージョンも存在するであろうことを一言添えておく。

ソクラテスの弁明・クリトン(プラトン) (岩波文庫)

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