この本はよくある「人生の成功方法」というテーマの下で様々な実体験エプソードをを分析し、社会実験等データに基づいた結論を次々と並べていく形式を取る。
その具材となるエピソードが非常に多く、読み物として面白い。
納得いく話も多いが、特に何か大きな持ち帰りがあるわけではないのが残念だ。若干タイトル詐欺なところがあり、成功「法則」と言えるほどのものではなかった
Barking Up the Wrong Treeという原著タイトルがなぜ「残酷すぎる成功法則」になるのかが今一つわからない。話として読んでいて「はえー、そうだったんかー」ってなるものはあるけれども、じゃあ今の自分にあてはめられるか?といったら疑問。
あくまで事例と解説を次々と並べているだけであって、普遍的なテーマが抽出できるにはできるけれども「まぁ当たり前だよね」といった話に落ち着いてしまう。ちょっと残念。
ただ、読み物としては非常に面白い。
この本はこんな方におすすめ
- 実際にあった出来事をまとめて、共通性を探すのが好きな方
- 一見正しいと思った考えを覆されるのが好きな方
- 成功している人がどのような人生を送り経験をしているか興味ある方
目次(タップで開きます)
ブックデータ
- 残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する
- エリック・バーカー
- 橘玲 (監修, 翻訳)
- 竹中てる実 (翻訳)
- 単行本(ソフトカバー): 400ページ
- 2017/10/25
- 飛鳥新社
こういうのが読みたかったんだよ、という奇抜なストーリーが満載
私は奇抜なノンフィクションが大好きだ。
「これは本当にあった話で~」というフレーズから始まる話はほぼ例外なく面白いと思うし、一番好きな映画は「ビューティフル・マインド」だ。スティーブ・ジョブスみたいなぶっ飛んだ成功者が大好きだし、絶望的な立場から逆転満塁ホームランで人生を成功させた人の話は心が躍るってもんじゃない。
だけれども、じゃあそれで何か得るものがあるのか? と聞いたらなかなか難しい。
スティーブ・ジョブスみたいに裸足で歩きまわってトイレに足突っ込んで流したところで私の給料は下がるだけだろうし(そこだけマネしてもクソほど意味がないことは当たり前だが)、辛抱強く頑張って何か成功させた人の話は聞けばじーんとくるけどじゃあ自分が辛抱強くパソコンに向き合っていられるかと言ったらたぶん数時間が限度だろう。
会社に昇降式デスクが導入されたから「よし、立って仕事して内勤でも体幹鍛えちゃうぞ!」と思っていたものの、1時間立っていたら足が痛くなっちゃっている。
まぁそんなわけで、エベレスト登頂の話とかを読んでもあんまり自分に転嫁できない。
この本は「すげぇなコイツ」ってなる人の話で満載だ。
だから読み物としては超絶面白い。こういう本をハシゴしていると「あー知ってる知ってる」ってなるエピソードの「ダブり」は結構あるけれども、それでも面白い。
でも、面白いだけで「だから?」となる。
いうほど残酷な話ではない
みなさんうすうす感じていることだと思うが、世の中はいいやつが成功するとは限らない。
いじめっ子のほうがいじめられっ子よりもが将来的に成功するという統計をどっかでみたけれども、そういう話は確かに「残酷すぎる」話だ。
でもちょっと考えてみれば攻撃は最大の防御というか、そういう(成功につながるという)面は確かにあるのかもしれないな、と思う。もちろんいじめを助長するつもりも擁護するつもりも一切ないが。
テーマとしては非常に面白いと思う。だけれども、案外蓋を開けてみれば中身は凡庸な話だ。
「学校で優秀な成績を収めている人よりも、そうじゃない人のほうが将来的に大成功している可能性が高い」という話がこの本では出てくる(やや意訳だが)。
というのも、何か一つに打ち込んでいたら他の作業はできないからだ、という説だ。
まぁ確かに一理ある。
でもそれは「残酷」なのだろうか?
世の中、そんなものじゃないだろうか?
学校の成績はあくまで学校のカリキュラムにおいてどういう点数を取れたかの話なのであって、それ以上の指針にはなり辛い。
プロ野球選手に向かって「で、君の学歴は?」とか聞いても意味ないだろうし、フィールズ賞を取った数学者に「で、君は100メートル何秒で走れるの?」と聞いても意味ないだろう。
だからそれと同じことであって、残酷も何でもない。
医者や弁護士にサイコパスが多いとか、幸福度が少ないとか、そういうことは一見「あれ?」と思うかもしれないが、少し考えてみれば専門性が高く高度な技術を要求される職業は何か一つに打ち込める精神力が必要だろうし、幸福度は金銭的なものよりかは褒められる・評価されるという心理的な側面のほうが大きいのはよく聞く話だ。
「まぁ妥当だよね」で終わるところが多い。
別に馬鹿にしているわけではなくて、本当に「そりゃそうだ」で終わってしまう話が多いのだ。
もう少し「残酷な」話であっと言わせてほしかったのが正直なところだ(もちろん原著では残酷であるか否かなんて一切触れていないのだけれども)
そもそも「残酷」なテーマや「成功法」の本と捉えるのがおかしい
これは日本語訳とマーケティングが悪い。
以前もレトリックの本について書いたけれども、洋書の邦題はミスリーディングなところがある。
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この本に紹介されている人たちは成功しているかもしれないが、それはこの本のメインのターゲット層であろうビジネスマンのいう成功であるとは必ずしも限らない。極めて限定的なシチュエーションの極めて特異な例が多く、話として面白いが結局それから汲み取れることは「最後まであきらめずがんばろう」といったような凡庸な内容でしかない。
こういった話に触発される人はいるだろうし、それを否定することは決してないけれども、やはり実用性が低いと言わざるを得ない。
まとめ 実際の成功体験をまとめた、無難な本
結局思ったことなのだけれども、私は成功体験の本を読んで何かを得られるような人間ではないらしい。いや、もちろん参考になる話はたくさんあるし、「なるほどな」と思わせてくれるところはちらほらある。
だけれどもそのためにこの本一冊が必要だとは思わないし、それならば例えば読書術とか勉強術とか複式簿記の歴史とか、特化した本を読んで気になるところを掘り下げたほうがよいだろう。身も蓋もない話をして本当に申し訳ないが、これが私にとっての「残酷な」真実だった。
Barking Up the Wrong Treeという原著タイトルがなぜ「残酷すぎる成功法則」になるのかが今一つわからない。話として読んでいて「はえー、そうだったんかー」ってなるものはあるけれども、じゃあ今の自分にあてはめられるか?といったら疑問。
あくまで事例と解説を次々と並べているだけであって、普遍的なテーマが抽出できるにはできるけれども「まぁ当たり前だよね」といった話に落ち着いてしまう。ちょっと残念。
ただ読み物としては非常に面白い。