私はなんちゃってミニマリスト、いわばミニマリストワナビである。ついつい最新のものが欲しくなるためそこまでディープにミニマリストをやっていられないが、それでも比較的モノは少ない人間であると思う。
とはいえ、「ミニマリスト生活をすること」と、「モノを手放す」ということは、同じようでいて実は少々違う気がする。
そんな中で出会ったのがこの「人生を変える断捨離」という一冊である。私はひねくれた性格で「人生を変える」なんて書いてある本はたいてい詐欺まがいという考えの人間なのだが、この本の場合は少しオーバーながらも、目指そうとしている理念は実にまっとうである。
今回はこの「人生を変える断捨離」を通して私が断捨離について感じたことについて紹介していきたいと思う。ただ「断捨離」を通してモノを整理するのではなく、「なぜ断捨離をするのか」「それでどういうプラス効果があるのか」を深く論じている、興味深い本だった。
この本はこんな方におすすめ
- モノを片付けたい、断捨離したい人
- モノはそこそこあるけど、きれいに整理されていて満足だ、という人
- 人生のリフレッシュを行いたい人
目次(タップで開きます)
ブックデータ
- 人生を変える断捨離
- やました ひでこ
- 単行本 256ページ
- 2018/2/22
- ダイヤモンド社
断捨離とは、ただ捨てることではない
「人生を変える断捨離」で正直一番驚いたのはこの点かもしれない。断捨離は、ただ捨てることではない。この本の一番冒頭に出てくる部分である。
断捨離が目指すところは家をきれいにすることではなく、人生の循環を良くするために、自然な状態を作ることだと筆者は説く。
私は断捨離にわかなので、「断捨離って要は、少しでも使わないと思ったものを捨てて行きましょう、みたいなそういう理念を延々と詰める話なのかな」と思っていたのだが、そうではなかった。
筆者の考えでは、私達の人生において、様々な「モノ」がはびこるようになり、それが人生の流れを鈍重化させているのである。ちょっと宗教っぽい言い方だが、しかしズバリそのとおりではないかと思う。
考えてみれば、今は非常に物理的に豊かな時代になってきている。一人あたりが所有している「モノ」の数は、近代よりもはるかに、桁外れに多くなっているのだろう。確かに私のデスクの上は片付いているとはいえ、筆記用具や書籍、ティッシュといったものまで入れたら品目は50種類に上がるかもしれない。一見片付いていいるのに、である。
…私たちは、「消費社会」という大きな川の流れからモノを取り入れています。ところが、池の入口で機能すべき「断」のバルブは緩んだままなのに、出口で機能するべき「捨」のバルブは、「もったいない」「面倒くさい」「いつか使うかも」の意識が邪魔をして、開かないままなのです。
本書p.21より
確かにいくらでもモノが手に入る社会になっているのに、「意識はモノが乏しかった時代の頃と比べてそのままである。捨てるときにはもったいないと思う」
しかし、なぜ「捨てること」が「人生の豊かさ」につながるのだろうか?
知らないオジサンという例えがツボにはまる
筆者はここで、面白いたとえを出してくる。
断捨離では、こうした忘却グッズを「"知らないオジサン"が詰まっている」と表現します。
ただのオジサンではありません。あなたの"知らないオジサン"が整然と、クローゼットに、押入れに、隙間収納に、床下収納に、住み着いているのです。
「知らない」ということは、今のあなたと関係が結ばれていないということです。
本書p.74より
こうした「知らないオジサン」だらけの家というのは、「満員電車に乗っているようなもの」であると言う。関係が希薄になってきた、いらないけれども捨てていないものというのがどんどん空間を圧迫していく。
満員電車にのってウキウキする人は稀有だろう。
スペースがない空間にいるということは、それだけストレスにつながるものなのである。そのストレスは結局は自分自身の人生の質を下げていくのだ。
そして「きれいに収納」することも、正解なのではない。ものを隙間なく押し込めた状態で美しいのはせいぜい本棚ぐらいで、スペースがあるからこそ空間的にゆとりができて、心が落ち着くと筆者は言う。はたしてそうだろうかと考えてみたが、たしかに真っ白な広い壁は美しいが、所狭しとポスターやらカレンダーやらが貼ってあったら圧迫感があるだろう。そういう「圧迫感」を取り除く、という意味でも断捨離は有効であると筆者は言う。
「人生を変える断捨離」は数多くの断捨離メソッドを教えてくれる
「人生を変える断捨離」は筆者直伝の素晴らしい断捨離方法が紹介されている。
筆者の紹介している断捨離ルールの例
残すべきモノ、捨てるべきモノを選ぶときに、何を「軸」にするべきか?
「見えない収納」「見える収納」「見せる収納」にはそれぞれどれぐらいの割合でモノを入れるべきか?
モノを収納する際に効率化につながる「ワンタッチの法則」とはなにか?
どれもこれも、読んでみると「なるほど、たしかに。頭いいな」と思うものばかりである。
だが個人的には、そのメソドロジーはあまり重要ではないと感じた。確かに、全くもって何から手を付けたらいいかわからない人にとってはとても良いアドバイスになるだろう。だが私達の多くは、「いざ片付けようと思ったら、どうしたらいいかは分かってる」という人ばかりである。
「人生を変える断捨離」から学ぶ、心と人生の整理
なぜ片付けをするのか、という点からまず考えないといけない。
片付ける目的を、この本は主体性を取り戻すという点に置いている。
私達は自分の周りのモノによって、普段の選択肢などを制限させられているという。確かに、私達の行動の多くは、その所有物によって左右されているのかもしれない。汚い環境にいると、どうにも気分が上がらない。モノが多いと、もったいない精神からかついつい「守る」方向に動いてしまう。
自分のモノがどう、ではなく、自分がどうしたいかということを中心に据えて人生を見つめ直す。それが「断捨離」の目的である。
考えてみれば、仕事でも新しいアイデアを出すときには、どうしても既存の環境や各種制限などによって思考の幅が狭まってしまうことがある。全部まっさらにして、ゼロから構築できたらどれだけ楽だろうと考えることがある。
それと同じように、柔軟に物事を考えていくための断捨離なのだ。
「人生を変える断捨離」は良い本だが、少し長いし「体験談」が嘘くさい
全体的に「人生を変える断捨離」は良い本であると感じた。メッセージはしっかりしているし、そのためのメソッドもかなり丁寧に記載していてくれる。
ただ、少々「くどいな」と感じるところはあった。メッセージがしっかりしているものの、「断捨離でこう人生が変わります」「人生が変わるんです」「そのための断捨離です」「人生変わるんですよ」と繰り返し言われている気になる。まるでセミナーの内容をそのまま書き起こしたようで、読んでいくとちょっとくどいなと感じた。
またところどころ挟んでくる「体験談」も結構とんでもというか、「信じ難いなぁ」と思うものが多い。
一昔前の雑誌の裏にあった(今もあるのだろうか?)「このパワーストーンを買ったらどんどんお金が貯まって彼女もできました!」みたいなものに近いストーリーが多く出てくる。
このあたりはまぁ。「言いたいことはわかる」ので、ちょっとした箸休め程度に読むのが良いだろう。
まとめ 断捨離では確かに人生を変えることはできそうだ
この本をなんとなく手にとった私自身も、「家のモノをどうにかしたいな」と思っていたところもあるのだろう。
だが驚かされたのは、ただの掃除・整理のハウツー本ではないというところだ。
この本を通して学べるのは、「なぜ掃除をするのか」「なぜモノを捨てるのか」ということだ。人生の豊かさには確かに物質的な豊かさはあるだろうが、それによって狭まってしまうものもある。そこを気づかせてくれる、とても良い本だと感じた。
私は比較的モノが少ない人間だが、それでも色々と感心させられるところはあったし、生活に取り込もうと思った箇所は多くあった。特に見える収納・見えない収納の使い方あたりは本当に面白かったし、早速実生活に取り入れている。
ぜひ皆さんもこの本を通して、「断捨離」でモノをなくす習慣を、そしてその先にある「自分の人生を自分で舵取りする」喜びを手にしてもらいたい。