私が就活をしていた2013年頃は、フェルミ推定がトレンドとまではいかないが、あちこちで使われている印象だった。この謎の概算技術(技術と言えるほどのものでもないが)は少なくとも私が受けた中で4社は出てきた問題だ。そして、未だに面接の場で使われていると聞いたことがある。
しかし、ビジネスに場においてフェルミ推定自体は何の役にも立たないと個人的には思っている。
そしてそのフェルミ推定は面接で候補者の知性を測るためにも何の訳にも立たないと私は思う。
エンリコ・フェルミは概算の達人だったようだが、概算を使うことは多くあれども、スプレッドシートで計算することが多い。頭の中でやる必要はないし、よしんばやれたとして、正確性を担保するためにもやはりスプレッドシートに起こす。
そもそもデータがない状態で概算をしても、意味があるのだろうか。まずはデータを集めるべきだ。なぜなら、大抵の場合知らないことに関する直感的な数字は間違っているからだ。
この記事はこんな方におすすめ
- 就活中の方(特に外銀やコンサル等に興味がある方)
- ビジネスの場でフェルミ推定の有効性について気になる方
目次(タップで開きます)
フェルミ推定とは
就活をしている学生なら何度か聞いたことがあるだろう。
フェルミ推定とは、ぱっと答えが出ないような(あるいはデータが存在しないであろうような)ものに対して、色々と推定を立てて計算をして、大まかな数字を割り出すことだ。いちばん有名なのは「シカゴにピアノの調律師は何人いるか?」という問題だ。
この問題を解く方法なんてごまんとあるが、「まずシカゴの人口は269万人ですが、ここは計算しやすいように250万人と考えます・・・」みたいなところからスタートしていく。正確さよりも、その問題を因数分解してロジカルにアプローチできるかを見極めるのが面接でのフェルミ推定使われ方だ。
実はフェルミ推定自体はあまり意味がないとされていて、アメリカの企業(とりわけGoogle)はこのような問題を学生に出すのはやめようという動きを見せている。(Work Rules!にこの点面白い記載があるので、おすすめだ)
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しかし未だに面接では出るみたいだし、私も面接官を引き受ける際にほかの面接官がどんな質問をしているかを確認し、その時やっぱり十中八九フェルミ推定がどっかで出来ていたりする。
フェルミ推定には攻略法がある。決められたパターンで要素を分解していき、それっぽい数字を頭の端からぽんぽこ出して行って、計算しやすく整えて計算していく。問題の凶悪そうな内容に反して、実のところやっていることは単純だ。
申し訳ないがこれで思考力を測るのは無理があると思う。突発的な頭の回転の本当に薄い一部や大雑把な数字の暗算能力がわかるかもしれないが、何か有意義なデータにつながるとは思えない。
フェルミ推定の落とし穴
私たちはそもそもフェルミ推定を有効に行えるほど、手元にデータを持っていることが少ない。
ファクトフルネスのレビューでも触れたが、私たちは世界の多くのことについて誤解していたり、はるか昔のデータを今も有効であるかのように使っている。
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目まぐるしく変わる世界で、有用なデータを持ち続けることは不可能に近い。どんな場面でも、データの一次ソースに当たらなければいけないことになる。
例えば新宿に新たなタピオカ店を立ち上げると考えた時、どのようなフェルミ推定をするだろうか?
日々競争が激化している2019年のタピオカブーム下の新宿で、新規店舗を概算できるほどの最新のデータを持ち合わせているのであればいいが、大抵の場合導入部分の潜在顧客とか新宿駅の利用者とかそのあたりで間違ったデータを使ってしまう。当然、結果は間違ったものとなる。
面接におけるフェルミ推定は正解にたどり着くか否かを見られていないため良いかもしれないが、ビジネスの場では「この問題・選択肢を深く掘るか否か」を見るために使うことがある。
果たして新宿に新たなタピオカ店を展開することは有意義か否か? それを決める際に、フェルミ推定を使用するのは危険だ。
推定や概算が危険なのではないが、いわゆるポピュラーなフェルミ推定が危険なのだ。
正しい概算はケーススタディと一次ソース
概算自体は極めて有用だ。
実際のキャッシュフローやEBITDAとかを計算するのにはそれなりにモデルを整備する必要があるし、そういう虎の巻的なスプレッドシートのテンプレートにアクセスがないときは概算が便利だ。
しかし概算をするためにも、きちんと一次ソースに触れていく必要がある。
バンカーはこういう概算用スプレッドシートや指標を計算するスプレッドシートを持っているが、それらの調整には細心の注意を払う。その結果の数字を見てクライアントは伸るか反るかを決めるのだから、ここであまりに間違った数字を出してはいけない。
計算の中に現れる各数字にはある程度の理由がなければならない。2018年はこうで、今年はそれに比べてこういう要因があったからこういう数値に設定しています、と即座に説明しなければならない。
「それは違うんじゃないかな」と言われたら、すぐに電卓を弾いて新しい数値を出す。この時も基本的には暗算はしない。クライアントの前で暗算で数字を出すのは、お皿に載せずに手渡しで料理を渡すようなものと私の入社時のチームリーダーだった方は言っていた(余談だが気づいたらその方はホリエモンみたいな格好になって国内の仮想通貨取引所に転職してしまった。社内全員でその変貌ぶりに腰を抜かした)
どのような数字もある程度の信頼の置けるソースをつけていく、それが重要だ。
結論 フェルミ推定で頭の良さはもはや測れない
フェルミ推定そのものは決して悪くないのだが、いかんせん有名になりすぎてしまった感はある。
誰もがパンチラインを知っている有名なダジャレとか、トリビア的な感じでもはや新鮮さはない。
フェルミ推定できる?知ってる? という常識チェック的に使うだけだ。
そこに深い意味を見出してはいけないし、ツールとして使うのも少し注意が必要だ。概算した結果を何に使うのか。その際に、概算が間違っていたらどのような影響があるか。
仕事の効率性をあまり落とさず、押さえるべき数字だけを押さえるとしたら何を確認したら良いのかを常に考えるべきだ。
その結果として概算を出すのは決して間違っていないだろう。