働きたくない。お金が欲しい。
誰だって持っている感情だろう。

好きなことを仕事にしたらダメだとか、仕事に誇りを持てだとか、経営者目線でいろだとか、色々巷では格言があるが、そもそも働きたくなんかない。
しかし、しかしだ。現実は非情である。どうやって働かずして食っていけば良いと言うのか。
今サラリーマンの人は、きっと定年退職するまでサラリーマン。下手すると定年後もアルバイトなどを重ねて老後2000万問題と直面していかなければならない…
そこで私はこの本に手を出した。

この本はこんな方におすすめ
- 効率的な蓄財を求めている方
- 怪しげな「絶対稼げる!」投資勧誘的なものは懲り懲りな方
- 投資を始めてみたいが、何からスタートすればいいかわからない方
ブックデータ
- FIRE 最強の早期リタイア術――最速でお金から自由になれる究極メソッド
- クリスティー・シェン、ブライス・リャン
- 単行本317ページ
- ダイヤモンド社
- 2020/3/18
FIRE 最強の早期リタイア術――最速でお金から自由になれる究極メソッド
そもそも「FIRE 最強の早期リタイア術」は読み物として面白い。
この本の著者は元々は作家を志していた。それだけあって、読ませる文章をしている。
まず著者が文無しの中国のど貧民層で生活しているところからスタートしている。いやはやぶっ飛んだ話だ。そして彼女は徐々に成功していく。その過程に雲があるかないかと言われれば、限りなく「運が良かった」と言えるだろう(もちろんスタート時点でど不幸なのだが)。
だがそれは本旨には関係がない。
彼女の貧困からの成り上がり生活はあくまでも読者に本書を読ませるためのスパイスにすぎない(いやしかし面白い話ではあるが)。

本書は彼女がいかにして「運」に頼ることなく、精緻な「理論」で自身を武装して、早期リタイアまで漕ぎ着けたのかを説明している。そのための本なのだ。
ただ、「とんでも人生ハッピーエンド話」が好きな方であれば、本書の内容を実践する・しないは別として大いに楽しむことができるだろう。
現実主義者でも納得、運を必要としない投資術
既にご存知かもしれないが、私は意識高い系ではあるが奔放な人間ではない。
割とネガティブ思考だし、基本的になんでも嘘だと思って食ってかかる性格である。だから「儲かる」なんて話はクソだし、久しぶりにかかってくる友人からの電話もクソである。
データしか信じないぞ!というスタンスでありながらも、データや表を出されると急に「何かアラはないのだろうか」と邪推してしまう人間である。つまりクソである。
なので私が「最速でお金から自由になれる究極メソッド」なんて書いてある本を手に取ったら、まず思うのは「こんなものは詐欺だ」である。
どうせ著者の「私は貧乏からこんなに金持ちになりました」という話で興味をガッツリひっかけられて、そこからズルズルと胡散臭い話につながるだろう、と思ってしまうのだ。

著者は再三言っている。再現性がないアドバイスは意味がない、と。
再現性。そう、これが最も重要なキーワードだ。著者にできても読者にできなければ意味がない。
私はこの本が何より素晴らしいと思った点は、「誰でも同じ戦略を取ることができる」点である。よくわからない博打ではないし、「運を味方につけよう」とか「まずは好かれる人間になるために行動を変えよう」とかそういうどうしようもない(というかクソ)なアドバイスとは違うのである。

裏を返せば、「誰でも実行できる程度のこと」しか書いていない。
誰でもできることしか書いていない本だからこそ、素晴らしい
ネタバレも何もないだろうから、簡単に言ってしまうと、著者の作戦は次の通りである:
インデックスに投資せよ。
理由は単純で、経済はいつでも成長するものだから、そこにお金を入れれば自然と伸びる。経済成長率よりも成績が良かったファンドマネージャーは少ない。だからこれが確実だ。
そして、今やミームのように広がった4%ルール、すなわち「年間支出の25倍の資産さえあれば、年利4%の運用益で生活していける」と言うものである。
わかりやすい話だし、長期的にみれば(平均してしまえば)その通りであろう。しかしこれはどのような投資系のビジネス本でも書かれている話だし、取り立てて目新しい情報は存在しない。

それは純粋に、筆者がこの戦略のもとに計算を積み重ねて、生のデータをもとに実証し、そしてこの投資メソッドの欠点について戦略を立てて補っているという点である。
初めにも言ったが、私はデータに裏付けられた情報以外は眉唾物だと思っているし、出されたデータは改竄されているものだと思っている。だが、筆者はそんな私でも納得がいく、丁寧で理路整然としたデータを示してくれている。
つまりこの本は投資のアドバイス本というよりかは、「過去のデータを丁寧に分析した結果、こういう手法をとれば少なくともプラスの収益になる」ということを説明している本になる。そしてその「少なくともプラスの収益」を用いてどのようにすれば早期リタイアしても問題ないような収入基盤になるか、ということを論じているのだ。
さらに言えば、この投資システム(あえてシステムと呼ぼう)は再現可能性が非常に高い。と言うより、自分で実際に手元で計算してみるのが一番手っ取り早いだろう。
毎年の生活にかかる支出を出して、その分だけ稼ぐためには、インデックス投資で年間4%の収益が見込めると考えた場合、いくら投資すればいいのか。実にシンプルな話である。
だが実際に、FIREは再現可能なのだろうか?
ここまで言われれば非常に聞こえがいいが、言ってしまえば絵に描いた餅である。誰しも一度は憧れるが、「いやしかし、現実的に考えたらねぇ」と思ってしまう。
早期リタイア人と言うのは例えばビットコインで一山当てた人とか、起業した人とか、親から莫大なお金を相続した人とか、あるいは最低レベルの生活をギリギリ賄っている人と思うかもしれない。
あるいは、子供がいたら無理だと感じるかもしれない。
これらの議論を筆者はデータを用いて丁寧に説明をしてくれる。そしてそれらはどれも「できそうだな」と思わせてくれるもののみだ。とどのつまりは、最後に勇気さえあれば自分でもできるのではないかと、そう思わせてくれるものだ。
しかしやはりハードルは高いと言わざるを得ない。蓄財するのが非常に難しい社会だからこそ、蓄財することにメリットがあるのだろうが、こと日本のように税金が高く何かと金がかかる国においては、リモートワークが受け入れられ始めていると言えどもなかなかに彼女のメソッドを実現するのはハードルが高い。周りからの目も厳しいだろう。
だが勘違いしないでほしい――著者の説明していることは十分に実現可能だ。
「そういうのは年収が1000万ぐらいあるからできるのだろう」という意見もあるかもしれない。これについては彼女は見事に論破してくれているので、興味があればぜひ本書を手に取ってもらいたい。
早期リタイアまで行かなくても、自分のペースでかなりの蓄財ができるだろう
この本を通してどこまで著者の説明を受け入れて進めるかはあなた次第だ。
しかしこれはゼロか100かの問題では決してない。「ここまでやりたい」というレベルまで進めて、そこで満足することだって十分にできる。

やはりズボラな性格なのでしょうもないことでお金を無駄に使ってしまっていたり、死ぬ気で働いて稼ぎまくろう!という意識がないので極限までやることはできないが、しかしそれでも十分に満足できる成果を得ていると感じている。
私がこの本にあと5年、いや、3年早く出会えていたら、もう少し結果はよかっただろう。
だが「遅すぎる」投資は存在しない。今からでも確実に進めていけるのがこの本の紹介しているテクニックの良いところだ。
繰り返すが、これは「魔法のお金が増える裏技」を教えてくれる本ではない。要約してしまえばきっと5行程度ですむ内容のことが書かれている。だが、だからこそこの本の内容は強いのだ。それだけシンプルに表すことができるルールにしたがって進めばいいのだから、考える必要もほとんどないだろう。
この本の内容だけで、あなたは今後戦っていけるだけの武器を得ることができる。
もちろん、ポートフォリオの整理テクやマーケットリスクを乗り越える方法などは非常にためになるので、さらなる武装を得ることも十分に可能だ。
FIREによる早期リタイアは日本でも可能なのか?
もちろん、「これは米国の話だ」と片づけるのは容易い。(実際はカナダの話でもあるのだが)
むしろ日本人はその傾向が非常に強い。「そうは言ったって、それは外国の話でしょう?」と。

もちろん、マーケットの成長率や税率など、社会主義に近しい我が国では事情が違うのはよくわかる。だがそれだけにセーフティーネットがしっかりと引かれており、老後の生活のために必要な資金や社会的サービスの価格が変動していることも勘案しなければならない。
そのまま著者のいう「4%ルール」を当てはめるだけではダメだろうが、資産をたとえば株式ではなくREITにシフトするなど、日本にマーケットに応じたポートフォリオの構成で十分に実現可能な範囲に入ってくるだろう。
そもそも著者は国・地域を跨いで活動するのが夢だった人間であるから、拠点をどこで考えようと関係ないように構築している。その点については本書に詳細が書かれているのでぜひ手に取ってみてもらいたい。
まとめ 投資なんてこの本一冊あればそれでいい
分かっている。読者の皆様の意見は分かっている。
「どうせこの一冊あればいいと言っておいて、次の本に手を出すんだろう?」と。
しかし私は真剣に思う。よほど行き詰まらない限り――よほどこの本が想定していない未曾有の経済危機などに直面しない限り(しかしそもそもそのような状況下でまともに蓄財なんてできるのだろうか?)、私はこの本で十分だと考える。
老後の資金がありません! となりたくないのであれば、この本の言われた通りに進めていけばいい。そうすれば、半ば自明的に、そして自動的に、貯金が可能であろう。
いや、貯金という言い方は正しくない。資金を増やすのがポイントなのだ。
そう、この本の言う通りにすれば(そして言う通りにする、と言うのがどれほどの難易度なのかは本を読めば自ずとわかる――そんなに難しい話じゃあない)、きちんと資金を増やすことができるのだ。
もちろん、人によってスタイルはまちまちだ。将来のためにせっせと働きたい人もいれば、ちょくちょくお金を使って今を楽しみたい人だっている。それは自由だ。

さあ、あなたも本書を手に取って、将来の不安とおさらばしよう。私はしたぞ!
FIRE 最強の早期リタイア術――最速でお金から自由になれる究極メソッド