意識高い系ブックレビュー

「世界最強の交渉術」は例も内容もイマイチな残念本だった

世界最強の交渉術

タイトルにハーバードとかMITとか東大とか入っている本であまりアタリに巡り合ったことがない。

本作も残念ながらその部類だ。

本書は体系的に交渉術を教えるのかと思えばそうではなく、いくつか例を(それも実例ではなく、A社は〜といった架空のケーススタディばかりだ)出しながら説明をしていく。何がどう世界最強なのかは今ひとつ伝わってこない。

この本はこんな方におすすめ

  • 実例を出されなくても、理論的な説明でOKという方
  • 交渉でWin-Win以上の結果を得る方法について、ロジカルに学びたい方
  • 交渉のあり方について、ほぼ初心者な方

 

ブックデータ

  • 世界最強の交渉術 ハーバード x MIT流
  • ローレンス・サスキンド
  • 有賀 裕子 (訳)
  • 単行本(ソフトカバー)181ページ
  • 2015/1/22
  • ダイヤモンド社
ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術---信頼関係を壊さずに最大の成果を得る6原則

ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術---信頼関係を壊さずに最大の成果を得る6原則

ローレンス・サスキンド, (ローレンス・E.サスカインド)
1,980円(12/04 07:44時点)
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交渉とは学べるものなのか

私は仕事上、何度か交渉の席に着いたことがある。

営業のためのトークではなく、M&A案件の進め方を決定する場であった。

私自身に任されていた交渉分野というのは非常に狭く(私は下っ端もいいところなのだから当然だ)、相手は私よりもはるかに知識と経験がある人間だった。そもそも年齢からして私よりも30は上、下手すると40は上の人間であった。

結果的に私は自身の能力ではなく、会社としての立場の説明をし、こういう結論に合意しなければならないことを素直にぶちまけて、相手はどれほど交渉の余地があるのか「教えてください」と懇願する形になった。

多分、いや、確実にこれはスマートなやり方ではなかっただろう。

だけれども、その時私の手札で切れるカードなんてほとんどなかったし、何か画期的なものを引き出すことは不可能であったと思う。つまり、テクニックでカバーできる部分なんて高が知れていたと思う。

この本を手に取った時、あの交渉の記憶が蘇った。

もちろん私は捨て駒というか、「出方を探ってきてくれ」程度のリトマス紙的な役割しか担っていなかったため、そんなに苦い経験ではない。だけれども、この本を通して「あの時何をしたらよかったのか」を学べたらと思ったのだ。

結論から言おう。

この本を通して得られるものはもちろんあったし、当時の私の立ち振る舞いや戦略で直すべきところを気づくことはできた。ただ、何かそれで大きくプラスになったのかといえば、怪しいところだ。

私の好きなタイプの本ではなかった

こういったビジネス書の類で、私が純粋に好きだとか面白いだとか思うものは基本的に二つある。

  • 一つは、エピソードが面白いもの。実際にあった話であれば余計ゾワっと面白さがある
  • 二つ目は、内容自体がためになるもの。気づかなかったことに気づかせてくれたり、新たなものの見方を教えてくれたり、あるいは根本的に知識が身につくものだ。

いうまでもないが、この二つが組み合わされば私にとっては最高の本となる。

残念ながら、この本はどちらでもなかった

エピソードはあまり数多くなく(あっても、あまりスケールが大きい話ではなかった)、内容もためにならないといえば嘘になるが、実に無味乾燥だった。

著者の経歴に見合わないぐらいエピソードが貧弱

この本で例として取り上げられるのは殆どが架空のシナリオだ。

もちろんあくまでも論理を読者により理解しやすくするために例をあげるのだから、それが事実に即している必要はない。だけれども、本当にあった話であればよりぐっと腑に落ちるというものだろう。

著者の経歴を見ると交渉学を長年MITで教えてきた超エリートだし、色々な国の最高裁やその他一流機関でのアドバイザリをされてきたともある。

それなら、もう少しエピソードにリアリティがあったり、面白みがあってもいいのではないか?

ドラマチックな話や、こうやって難航する交渉で機転を利かせ勝利を得た、みたいな話がなく淡々とその章で説明するためのキーポイントを踏まえたような話しか出てこない

内容に新鮮さはない

わかっている。魔法のような交渉のテクニックなんてないのだと。

野球やゴルフの上達法の本を読んでも結局は「やるしかない」ように、交渉は本で簡単に学べるようなものではない。

それでも例えば野球やゴルフでは場面に合った戦略や、効率的な練習法や、上達につながる道具の選び方といったものがあるだろう。その先は本人の努力に依存するとしても、だ。

だがこの本が提唱するテクニックは殆どが「そりゃそうだろうよ」というようなものでしかない

相手の立場になって考えてみよう、とか、相手によってはプライドや立場が邪魔して目的をちゃんと見えていないかもしれないだとか、とてもありがちなことしか書かれていないことが多い。

中にはちょっと「お?」と思うものもあったが、正直なところを言うと読むのが苦痛であるところが多かった

何より不可解なのは、この本はビギナーを想定して書いていないということだ。

序盤にも「ハーバード流交渉術はすっかり浸透してしまったので、ワンステップ上にいく必要がある」といった文言が書かれている。

それなのに、この内容なのか。本当に不思議だ。どこからワンステップ上に行く予定なのだろうか。

まとめ 当たり前だが、魔法の方法はない

繰り返しになるが、交渉に魔法のテクニックはない。

だけれども、効率的な根回しの方法だとか、資料やデータを出す効果的な順番やテクニック、相手に意図を悟られない話術や避けるべきキーワード等、何かより実践的なものが欲しかった

中立な第三者を媒介させようだとか、お互い納得できるように共同で事実を明らかにしていこうだとかは、正直言って「そらそうよ」としか言いようがない。

ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術---信頼関係を壊さずに最大の成果を得る6原則

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  • この記事を書いた人

内藤エルフ

2013年東京大学法学部卒業。都内の米系投資銀行勤務。英語と日本語のバイリンガル。意識高い系そのものが好き。スターバックスでMacbookを開いてドヤ顔するのが好き(しかし仕事のファイルは持ち出し禁止なのでネットサーフィンのみ)。なお、コーヒーの味の違いはわからないけど、日本とアメリカのコーラの味の違いは7割の確率で当てられる。

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