非常に分かりやすく、時系列を追いながら主要なローマ史のポイントを学ぶことができる。
「読み方」とあるが、面白ポイントをピックアップしてくれているので興味のある分野を掘り下げることができる。なかなか親しみのわかないローマの歴史でも、「これは面白いなぁ」と思うポイントが必ず存在する。そういったところを見つけるという意味でもこの本はおすすめだ。
当然ローマ史の全てを網羅することはできないが、ある程度の知識はつくのではないだろうか。教養として、というところがまたいい形にポイントを押さえてくれている。
この本はこんな方におすすめ
- ローマ史をざっくりと概観したい方
- ローマ史における興味深いポイントをいくつか知りたい方
- 歴史を面白く読みたい方
目次(タップで開きます)
ブックデータ
- 教養としての「ローマ史」の読み方
- 本村 凌二
- 単行本(ソフトカバー): 382ページ
- 2018/3/20
- PHP研究所
教養としてのローマ史とはなんぞや
ローマの歴史については色々なところで言及されている。
どんな文明文化についても言えることだけれども、意外とローマ発祥なものは多いし、昔からあるものではあるがローマである程度今の形になったものも多い。そういう意味では、断片的なローマ知識というものは持っている人が多いと思う。
だけれども、その歴史があまりに長いため、ローマのはじまりから終わりまで(そしてそれを定義づけるのも色々と議論がある話だが)の一連の流れと、ローマの終焉がなぜ訪れたのかについて語れる人間は多くないのではないだろうか。
語れたところで何かなるのかといえばそりゃ言わない約束なのだが、すくなくとも教養として身につけておいても損はないものだし、なにより面白いだろう?
名前が続くと眠くなりがちだが
しかし、歴史というのは往々にして年号や名前が羅列されてどうにも眠くなってしまうものだ。この本に関していえばその心配は少ない。
というのも、「ローマのはじまりから終わりまで」という大きな流れに沿って、重要あるいは興味深い話を取り上げそれぞれについて2-3ページ触れていくという流れになっている。コラム形式だ。
正直な話、ペラペラっと読んでいてあまり興味ないと思えば流し読みすれば良いし、面白いと思えば慎重に読めば良い。
やはりカタカナの名前が多く出てくる上に(日本人の我々からしたら)非常にややこしい名前もあるので、読んでいて「あれ、コイツ誰だっけ・・・?」となってしまうこともままある。
それは仕方がない。というより私の記憶力の悪さの問題だ。
しかし眠くなりがちな歴史の授業を(こういったら歴史分野に携わっている人に大変失礼だが)わかりやすく、面白く、消化しやすい大きさに切り分けてくれる筆者の心遣いには感謝しかない。
端折られているところに興味が湧く
当然、長いローマの歴史を全て網羅することは到底できない。そもそも単行本一冊でカバーするのはあり得ない話だろう。
となると、端折られる部分が出てくる。これは当たり前のことだ。
そして端折られた部分に興味が向かうのもまた事実だ。
神は細部に宿るとはよく言ったものだが、(私が特殊な感性を持っているからかもしれないが)見事に端折られてしまったローマ皇帝などに強く惹かれるものがいくつかあった。なぜ彼らの政策は失敗あるいは成功したのか、そいういった点を深く掘り下げて見たいという気持ちになってくる。
私は成功談よりも失敗談が好きな性悪なタチだから、この点は気になって仕方がないのだ。
だけれどもそれは決してこの本の悪い点ではない。むしろ「興味が湧いてくる」ように巧みに端折ってくれるのだからある意味いい性格をしている。
やはり「教養として」なだけあって、それ以降を調べたくなるようにできているのだ。
結論 全体として申し分なく面白い
ここまで面白くストーリー仕立てでまとめられると、一気に読んでしまう。
ギボンのローマ史なんてのは私の「いつか読んでみたいけど読み切れる自信がない本リスト」に「失われた時を求めて」と一緒にトップに載っていたりするのだが、この本は反面美味しいどこ取りをしてくれているので素晴らしい。
そしてそれを現代の問題である難民問題であるとか、内政の仕組みだとか、そういうところにきちんと定期的にリンクしてくれるから「ずっと昔のこと」に触れ続けているような気にさせないところがまたにくい。
だけれども、結末については少々急ぎ足だったように感じざるを得ない。
ここまで丁寧に、我々が面白いと思うであろうブロックに丁寧に切り取りながら長い長いローマの歴史の流れをはじまりから終わりまで語ってくれたのだから、それと同じぐらいの丁寧さでまとめが欲しかった気がする。
最後は結局トランプ政権批判のようになってしまって、それ自体は題材としてはとても良いのだけれども、はたして「教養としてのローマ史の読み方」のエンディングとしてふさわしかったのかは疑問が残る。
とはいえ、全体としては非常に丁寧に、かつ大胆に端折って書かれていて、実に面白かった。ローマに馴染みがない人でも、いや、むしろそういう人こそ本書を手にとってもらいたい。
ぜひ、著者の次の作品を読んでみたい。