文章がうまくなりたい。
どこから手をつけたらいいか分からない。
闇雲に書いても、意味がない。
学ぶにしても、どう学べばいいか知らない。
そんな私の前に現れたのがこの本だ。
特筆したいのは、タイトルは「バズる」とあるがなにもSNSに特化した話ではない。万能に使える文章術や思考法が紹介されている。文芸オタクという著者が、色々な作者の色々なスタイルの名文を紹介し、解説し、それを自分のものとして使えるようにテクニック形式で伝授してくれる。
そして、素直にこれが面白い。
一人の作者の一人の文章だとダレてしまいそうだが、古今東西様々な面で活躍する物書きの先生たちの文章が集められている。
そして解説が小気味よく、実に読みやすい。早く自分も文章を書きたい、となる一冊だ。
この本はこんな方におすすめ
- 漠然と文章がうまくなりたいと思う方
- つかみや描写の方法、ネタ出しなどピンポイントな点でプロの文を参考にしたい方
- とにかく上手い文章に何パターンも触れたい方
- 人が喜ぶ文章を書きたいと思う方
ブックデータ
- 文芸オタクの私が教える バズる文章教室
- 三宅 香帆
- 単行本(ソフトカバー)263ページ
- 2019/6/7
- サンクチュアリ出版
よい文は、面白い文
著者はまずよい文、とりわけバズる文章とは何かを考える。
そして行き着いたのが、センセーショナルな文章やタメになる文章、炎上しそうな文章といった私たちが思い浮かべそうな「バズる」文章ではなく、素直に「読んでいて楽しい、面白い文章」であると説く。
確かに著者の言うように、炎上するようないかにもなネタは一時的にバズるかもしれないが、一過性に過ぎない。
ずっと使えるテクニックとして、そういうギミックに頼るのではなく、文章自体を磨いて読ませるようにした方が良い、と言うのだ。
確かに文章が上達すれば、それは武器になる。ずっと使える、一過性ではなく身につけ続けられるものになる。そのテクニックを駆使して著者は何度も「バズる」文章を書いてきたのだから、なるほどと思わせるものがある。
数々の名文を通してテクニックを知り、それを自分のものにできるように構成要素を分解して解説をしてくれる、というのが本著のスタンスだ。その解説もわかりやすいし、こうやって切り分けてもらえると「自分にもできるかも」と思わせてくれる。
では、何が面白い文なのか?
当たり前のことではあるが、面白い文章と一言で言っても、そのパターンは無数存在する。
そのため著者は50近くの例を出し、それぞれどこが、何が、どのように優れているのかを解説してくれる。
これだけ数があればモノによっては「言うほどかな?」と思うものもあれば、「いや、確かにこれは面白いぞ」と唸らせるものもある。
引き込まれるでしょう?と著者がいう文章はその通りズルズルと引き込まれるし、「これはスゴイ」と語る文章は確かに自分では到底思いつかないようなものばかりた。
それぞれの文章のパターンに「同意先行モデル」とか「虚構現実往復モデル」とか命名しているのも面白いし、著者がたまに同じ内容を伝える「平凡な文」と「名文」を並べて、いかにその言葉の選択や並べ方が効果的なのを浮き彫りにしているのも読んでいて楽しい。
また、著者のハイテンションさやツッコミの多さは個人的にはとても好印象だった。人によってはウザいと感じるかもしれないが、情熱あふれていて本当に好きで書いているんだなぁと伝わってきて読んでいるこちらも笑顔になる程だった。
この人、絶対いい人だよ。
ズバリ、この本のテクニックは使えるのか
私はAmazonに並ぶであろうこの本のレビューの文言がありありと浮かんでくる。
「色々な文章があり、著者の解説が面白かったです。でも、自分にこれができるかというと微妙なので★ふたつにします」
Amazonの商品ページを開かなくてもわかる。絶対にこう書かれるだろう。
確かに「文章術」と銘打っている以上、そこからテクニックを学びたいと思うのは当然だ。そして蓋を開けてみると、色々な文章が載ってはいるが、その人だからこそ書ける文章であり、自分にはできなさそう!と感じるのは当然だと思う。
とはいえ。
そんなことは決してないと思う。
極端な話、単語を入れ替えて構文をそのまま真似てしまえばいいのだ(もちろんそのまま発表したら盗作になるので練習として、だ)。
絵の練習だって、上手だと思う作品の模写やトレースをする人が多いように、文章だって模倣から入っていいはずだ。そのまま自分の作品として発表するのは当然いけないが、発表せずとも練習にしたらいい。
特効薬のように、すぐ上手くなる!なんて話は存在しない(だが、私は十分に読んですぐ使えるテクニックが詰まっていたと感じた)。
受動的では何も意味がない。アウトプットが全てだから、上のようなレビューを書く方は是非試してみては?と著者でもないのに言ってみる。
個人的に気に入ったもの
以下、ほんの少しこの本の内容で気に入ったものを紹介したい。
あえてお手本の文章ではなく、著者の解説文を引用したいと思う。
あまりにも美しい北原白秋先生の文章ですが、その中で語られているのは「カステラ最高」だけ。初夏、淡い紫色の花が飾られたテーブルに出される、少しぱさぱさしたカステラが最高なんですって。そ、そんなの私でも書けるもん! とすねたくなるけれど、北原白秋先生のセンスが素晴らしいのは「カステラ」について語るために、わざわざ「桐の花」を隣においたところです。
本書 p.50より
冷たかった文章が突然、体温を持ったわけです。読み手はそのギャップにドキッとして、瞬時に心を開いてしまいます。ほら、あたかもびしっとスーツをで決めていた紳士が、突然ジャケットを脱ぎ捨てて、ネクタイをほどきながら、なにかを語り始めようとするみたいに。しゃべり口調で書かれていた文章が、急にあらたまった丁寧語に変わっても同様です。本気さが伝わって、読み手は(これは聞かないと)という気にさせられるのです。
本書 p.111より
これだけではなく、たくさん著者の素敵な合いの手と言うか、解説が入っている。
それを読んでいるだけでも面白い。本当に文章が好きで、本当に丁寧に見ているんだなと伝わってきて非常に楽しい。
まとめ 文章術の指南書としても、読み物としても面白い本
文章はすぐにはうまくならない。
それは当たり前。
だけれども、この本に紹介されている書き方や思考法を真似たら、グッと上達するのは間違いないと思う。
言葉のチョイスや使うタイミングなどは当然練習の経験を重ねないとわからない。それはどんな勉強でもスポーツでも同じことだ。体得するには経験が大事だ。
だが、目の前に文章マスター達のお手本がずらりとあるのだから、「どこから自分のものにしたらいいのかわからない」というのは言い訳にならない。
それ以外にも、普段は恥ずかしながら何も考えずに読み飛ばしてしまっているような文章の解説が載っていると、グッと文章を読む楽しみが増えてくる。
ここ!ここがスゴイんだよ!
という著者のハイテンションさにグイグイ引っ張られて、あれよあれよという間に素敵な文章の世界を冒険している。
いい文章を読んでいると、自分も書きたい!という気持ちになってくる。
この本は物書きへと誘ってくれる、最高のモチベーターだ。
また名文の事例集のような使い方もでき、読み物としても素直にオススメできる一冊だ。