意識高い系ブックレビュー

「ティール組織」は興味深いが自身の行動へとつなげるのが難しい、長く重い本

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

「ティール組織」は長いこと書店のビジネス本コーナーに面置きされていて、その辞書の如き分厚さと名前の通り青と緑の間のちょっと光沢のあるカバーは重厚なオーラを放っていた。いつかは読みたいなと思いつつも「いや長いし高いし・・・」と尻込みしていたのだが、この度実際に手にとって読んでみた。

組織を再発明するという副題の通り、かなりチャレンジングで刺激的な内容ではあったが、なかなか自身の行動、自身の環境への結びつきが乏しく感じられた。

非常に長く、重く、ある意味で苦しい読書ではあったが、知的に揺さぶられる、これぞビジネス書籍といった内容だった。だがボリューム感の割にはなかなかメッセージが先に進まず、食傷気味になり、終わってみれば「で、どうしたらいいんだ?」と少し困惑した。

しかし来たるべき(既に来ているという考え方もできる)この斬新な新組織については私は大いに同意するし、可能であれば私もティール型組織で働きたいとすらも思った。それをどうやって実現するかがやはり難点であり、方針は懇切丁寧に説明されているものの、ぐっと揺さぶれるような内容ではなかったかもしれない。

こんな方におすすめ

  • 今話題の「ティール組織」という新たな組織体系について学びたい方
  • セルフマネジメントの方法とその効果について知りたい方
  • 本当にティール組織が成り立つのか、疑問に思っている方
  • 長い読書でも苦としない方

ブックデータ

  • ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
  • フレデリック・ラルー (著)
  • 鈴木 立哉 (訳)
  • 嘉村 賢州 (解説)
  • 単行本(ソフトカバー)592ページ
  • 2018/1/24
  • 英治出版
ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

フレデリック・ラルー, 嘉村賢州
2,475円(09/22 17:49時点)
発売日: 2018/01/23
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ティール組織とは何か

ほとんどの組織は、事業の変更、合併、集中化、分散化、ITシステム導入、ミッション・ステートメントの作り直しや評価・報奨システムの再構築を何度も経験してきた。現在の運営方法が限界に達したと感じて、こうした従来の処方箋が、解決ではなく問題の一部であるように思えることも少なくない。

もっと大胆で革新的な方法が求められている。しかしそれは本当に可能なのだろうか? それとも単なる希望的観測なのだろうか? 人々の可能性をもっと引き出す組織とは、どんな組織だろうか? どうすれば、そんな組織を実現できるのだろう? 本書の核心をなすのはこうした問いである。

本書 p.14より

このレビューを呼んでいる方はそもそもティール組織がどういうものか、ある程度認識があるものだと思うが、簡単に説明するとこういうことになる:

著者は人間の組織体制に発展を「色」で便宜上表現しており、暴力が支配していた「レッド」組織や、ルールと階級できっかり管理する「オレンジ」組織が存在する。

今もっともこの組織のあり方が進んだ(必ずしも良い、という意味ではない)ものが文化重視で家族的な「グリーン」組織だが、その次のステップとして著者が提案するのが「ティール」(緑と青の間)組織だ

組織のことを「機械」とか「家族」とか考えることができるが、ティール組織においては組織は「生き物」のように捉えられる。階級は忘れ、仲間との関係性を重視し、自分をさらけだして働くことが重視される。組織の行き先を予測したりするのではなく、この組織は何をしたいのか? どこへ行きたいのか? ということを常に考え続けて、進んでいくことになる。繰り返すが、組織を「生き物」として考えるのだ。

ピラミッド型組織では・・・組織にトップはミーティングが多すぎるとこぼし、組織の下にいる人々は権限が奪われていると感じている。

本書 p.127

ティール型組織では大きく転換し、あらゆる情報を共有し、同僚間の話し合いでチームの予算を決め、なるべく流動的な上下関係を持つといった特徴がある。

今までの私達が慣れているピラミッド型の組織から大きく離れた、フラットで、共同体的な組織だ。全員が自身の行動に責任を持って動き、そして全体としての価値観と目的意識が同調しているのだ。

実際のところ、ティール組織は夢物語なのか

私は著者の考えに深く賛同する。

今の組織のあり方は効率性を求めているが、その結果としてネガティブな一面が現れているのも事実だ。著者が指摘するように、私たちの人生はどんどん物欲や自己顕示欲にまみれて行き社会的ステータスの向上を求めていくが、それは結局人生の目的を満たすことにはならないと著者は説く。

まぁ、一部の人はそれが人生の目的かもしれないし、あまりその点は責められないが、現代型の合理主義・効率主義的な組織は多くの問題をはらんでいるのは事実だろう。チャーチルの言うように「ひどい制度だが、今ある制度の中ではマシだ」という気持ちで、「給料って慰謝料だよね」みたいな気持ちで接していくしかないかもと思っていた自分がいる

そんな中で、「ティール組織」はそういう問題点を克服するべく、様々な提案をしていく。この組織は前述したように「生き物」のように組織を考えて、その「生き物」が行きたいところへと進んでいけるように組織の構成員がサポートしていく。

組織のメンバーは階層などを意識せず、同僚を平等な仲間として捉えて、自主経営の気持ちの元業務を行っていく。

といっても、これだけでは今ひとつ内容は伝わってこないだろう。著者は細かく仕事の進め方、組織のあり方、人事評価の方法など各要素に分けてティール組織のあり方を説明していく

また著者はティール組織(に類する)体制を実際にとって成功している組織の例を紹介している。放任主義に一見見えるかもしれないが、非常に緻密に考え抜かれたガバナンス体制が整備されているケースがほとんどで、どのようにそれを機能させているかを説明している。

・・・自主経営とは組織から階層を取り払い、何でもかんでもコンセンサスに基づいて民主的に決めることだと思いこんでしまうことがある。むろんこれはあまりにも単純化した誤解で、自主経営にははるかに深い意味がある。自主経営でも、従来のピラミッド型組織とまさに同じ様に、一連の組織構造、意志決定プロセス、組織慣行が連動しており、チームがどのようにつくられ、意思決定がどのようになされ、どのような役割が定義されて社員間に広がり、報酬がどのように定められ、人々がどにように雇用、あるいは解雇されるかといったことが決まっているのだ。

本書 p.226より

ティール組織を運営するためには、組織を構成する個々人がきちんとルールを理解して、適切なコミュニケーションが行えるようにならなければならない。上司が存在しない分、自分が責任を負って何かを完遂させるという意識をもたなければならない。その教育、ベース作りが非常に重要であると著者は説く。

確かにこれは理にかなっているし、その構成要素をきちんと果たせる人材を「育成」することができれば、とても心強いだろう。

それ以外にも報酬も平等な同僚間の話し合いで決める、など様々な企業のティール組織的な運営を紹介してくれている。

著者のあげる例を見る分には、ある程度の規模の組織であっても、ティール型組織は成り立つように思える。決して夢物語や理想論ではないのだ。

突き詰めれば、極めて合理的な話

ティール組織は、結局個々人の性善説に立っているところがある。それはある意味で非常に合理的なのかもしれない。人は信頼ならないと考えて、ミドルマネージャーを立てて細やかな管理を行うのが最終的には最も効率的であるという結果にたどり着いたように思えるが、確かに全員が目的意識と自主経営の意識を持って動けばティール組織は非常にスピーディーに物事を展開することができる

それは確かに、極めて合理的だと言わざるを得ない。

だが、私達の多くは「指示される」ことが好きだ。こうしてくださいと言われたほうが、「自由に良いと思うことをやって」と言われるよりかは気が楽なところがある人のほうが多いだろう。

それはおそらく、責任や失敗を恐れているからかもしれない。ティール組織は確かに効率的で、スピード感を持って物事にあたれるが、個人の自主経営の意識は並大抵に芽生えるものではない。ただ機械的に仕事をこなしたほうが気が楽という人が一定数いる以上、ミドルマネジメントをすることが間違っているとは言いづらいことが多い。

その辺りをどのようにハードルを乗り越えて行くのかについて、著者は懇切丁寧に説明してくれているが、なかなか個人的にはピンとくるものは少なかった。

理想論ではないけれども、実現可能性を考えると難しい

ティール型組織の理念はよく分かったし、その良さもとてもよくわかる。時代の流れにのって人間の作り上げる組織は幾度となく変化してきたというのも納得いくし、その通りだと思う。

そして「次に来る」のがティール型組織なのかはわからないが、しかしそれに近しい何かが生まれても決しておかしくはないと思う。著者の言う通り、「すでに来ている」とも言えるほどこのような組織体制を取っている会社は存在しているのだ。

しかし、人間のメンタリティはなかなか変わらない

暴力による支配も、制度によるガチガチの組織づくりも、実は構成している人間はそう変わりはしないのではないだろうかと思ったりはする。著者も触れてはいるが、組織は変わって人のマインドセットが変わっても、一定数の(決して少なくはない)、古いメンタリティを持ち続ける人が存在する。自分の頭で考えて動くよりも、命令されるのが好きというタイプなんてその典型だ。

そう考えると、ティール型組織は相当に人を選んで、相当に人を教育して共通意識と組織の存在目的に共感できる人間を作っていかなければならない。

自主経営というコンセプトも私の会社でもよく聞かれる。あいにく私の組織はティールでもグリーンでもなく、どちらかといえば軍隊的なオレンジっぽい組織だが(金融機関はルールが多いだろう)、「皆さん、自分がこの会社の経営者の一人なんだという気持ちで仕事にあたってくださいね」とイノベーションを促す活動は昨今活発になっている。同業他社のみならず、業界をこえてこれは出てきている潮流だろう。

とはいえ、やはりしっかりとしたそれに特化した教育を行わないと、急には「自主経営」の意識は芽生えない

著者が説明する、「ティール組織を導くための前提や慣行」は非常に優れたものだと思うし、私には議論の余地はまったくない。

だが、それを浸透させられるのか、そんな事をいって悲観的に言いまくるクレーマーになりたいわけではないが、やはりこの本を読んでも「うーん・・・」と言わざるを得ない。

まとめ 非常に興味深いし、正しいと思うけれども、見えてこない

ティール組織はすごく良い試みだと思うし、実際にこの組織体制を取り込んで成功している企業がいることに私は全く驚きを感じない

著者のロジックは丁寧で見事だし、ただ理想論を語るのではなく「では、どうしたらいいのか」という説明をきちんとしてくれる。ティールがもたらすのは企業の効率化だけではなく、ワークライフバランスとまさに「人間が生きるための必要な物」全てに効果的だというのも全くもってうなずける話だ。

ここに私は一切異論はない。

だがやはり、比較的保守的な考え方を持つ私の悪い癖かもしれないけれども、広範に渡って実現しているビジョンが見えてこない。こういう運営の仕方をする企業がちらほらと出てくるのは大いにあり得る、というかそうなるであろうと確信すらできるが、では組織のあり方がぐっとティール多数になるとはなかなか想像がつかない。

それはきっと私が古めかしいピラミッド型かつ縦割りの会社にいるからかもしれない。ミーティングでがんじがらめだからかもしれない。

それ故にティールに理想は抱くが、なかなか実現が見えてこない。

むしろ私達の子供の世代に、教育の方針などが変わりより「自主的」な人間のあり方が認められるようになってきたら、ティール化していくのではないだろうか

いずれにせよ、非常に興味深く読める素敵な本だった。読みすすめるのに時間はかかるとは思うが、マネージャーや経営者でなくても「組織のあり方とは何だろうか?」と考えるにあたって、強くおすすめしたい本だ。

ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

フレデリック・ラルー, 嘉村賢州
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[イラスト解説]ティール組織――新しい働き方のスタイル

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  • この記事を書いた人

内藤エルフ

2013年東京大学法学部卒業。都内の米系投資銀行勤務。英語と日本語のバイリンガル。意識高い系そのものが好き。スターバックスでMacbookを開いてドヤ顔するのが好き(しかし仕事のファイルは持ち出し禁止なのでネットサーフィンのみ)。なお、コーヒーの味の違いはわからないけど、日本とアメリカのコーラの味の違いは7割の確率で当てられる。

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