私は超がつくほど記憶力がない人間で、暗記力が試される試験などは本当に人一倍苦労してきた。だから未だに試験の夢を見る。
そんな話はさておき、皆さんは読まれた本の内容をどれほど覚えていらっしゃるだろうか? 私は恥ずかしいことにほとんど覚えていないタチの人間なので、そのためにこうして書評をせこせこと書いているということもある。私はとにかく記憶力がある人間が羨ましくて、「記憶術」系の本はわりと読み込んでいる。
そんな中で出会ったのがこの「精神科医が教える 読んだら忘れない読書術」である。これがただの「読んだら忘れない読書術」だったら「まーたこの手の本か」と思うのだが、枕詞に「精神科医が教える」とついている。そう、意識高い系は権威に弱いのだ。
実際に読んでみたところ、正直なことを申し上げると「読んだら忘れない」部分はだいぶ誇張である。しかし、それ以上に「読書の素晴らしさ」に気づかせてくれる、良書であったと思う。
この本はこんな方におすすめ
- 「本は読みたいけど、読む時間がない」という人
- 読書したけど、内容を忘れがちな人
- 本を読むというインプットに対して、適切なアウトプットの方法を知りたい人
ブックデータ
- 精神科医が教える 読んだら忘れない読書術
- 樺沢 紫苑
- 単行本 251ページ
- サンマーク出版
- 2015/4/20
「読んだら忘れない」は流石に高望みである
このタイトルに100%釣られる人間はいないと思うが(遠い目)、流石に「読んだら忘れない」ようにすることは難しい。とはいえ、「どうやったら忘れにくくなるか」という目線でアドバイスをしてくれているのがこの本である。
なので、この本のタイトルを正しくつけるのであれば、「精神科医が教える 読書の素晴らしさ、効率良い読書の仕方、適切な読書のアウトプットの仕方、そして読んだ内容を忘れにくくするためのTips」だろうか。
まぁ、マーケティング的にこんなタイトルの本は売れないであろうから、仕方はないのだが・・・。
だが、良い本であることに変わりはない。少しぐらいタイトルの誇張表現は大目に見よう。
この本が教えてくれるのは、「そもそも忘れないものとはなにか」という点から、読書を考えるというものである。わかりやすいのがアドレナリンが出ている場合の例で、例えば交通事故にあったシーンである。流石に交通事故に遭うほどの衝撃を読書に求めるのは酷だが、「ではどうやったらアドレナリンが分泌されるような読書を行うか」を考えていく。そのために例えば「次の駅へつくまでの間に○○ページまで読もう」と追い込むテクなどが出てくる。
それだけ読むと「あほくさ」と思うかもしれないが、しかしこういう細やかなテクニックの積み重ねて、読書の経験をより「忘れにくいもの」にしてくれるのである。
筆者が紹介するテクニックはひとつやふたつではない。かなりの数である。それぞれには向き不向きがあるし、「ふむふむ、たしかに」と思うものもあれば、「いやそれは無理があろうだろう・・・」というものまで様々であるが(ウルトラマンのカラータイマー説は笑ってしまった、内容は読んでからのお楽しみである)、かなり熱心に「忘れない読書とはなにか」に向き合っていることが分かる。
「読んだら忘れない読書術」で大事なのはテクニックではなく読書のメリット
しかし個人的に関心したのは、ただ読書術の部分だけの話ではない。
「精神科医が教える 読んだら忘れない読書術」でもっとも重要なのは、いかに読書が大事であるかという点である。例えばこんな一節がある。
毎日、2時間、電車の中でスマホを使ってゲームやメールをしても、あなたの収入は1円も増えませんが、毎日、2時間の読書で月に10冊の本を読めば、年に120冊の本を読めます。10年で1200冊です。ここまで本を読めば、あなたの人生に革命が起きることは間違いないでしょう。
「精神科医が教える 読んだら忘れない読書術」 p.88
ちょっとオーバーな表現だな、と最初は思ったのだが、しかし冷静に考えてみればそのとおりである。私はもともと暇な時間を読書にあてるタイプの人間だが、それによっておそらく一般的な人よりはるかに本を読んでいる。そしてそのおかげで、かなり人生において有利に働いたと思うシーンはある。だからこの点は全面的に筆者に同意である。
筆者これ以外にも「年収と読書量の相関」「お金持ちが読書量が多いと言っても、お金があるから余裕があって本を読めているというわけではない理由」「筆者が人の3倍のアウトプット(仕事)ができているのは、読書のおかげである理由」といった様々なエピソードを交えながら、読書の素晴らしさを語ってくれる。
ちょっと怪しい自己啓発セミナー講師っぽい語り口がところどころ出てくるのだが(偏見)、しかし言わんとしていることは至極まっとうであり、「あっぱれ!読書バンザイ!」と言いたくなる。
読んだ内容を忘れないようにするアウトプットとはなにか
大事なのはアウトプットである。
何を隠そう、このブログの名前もまさしく「The Output」。私はアウトプット信者だ。こういう書評を書きまくっているのも、ひとえに「アウトプットがもっとも大事」だと思っているからである。
そしてアウトプットをすれば、必ず内容は忘れづらくなる。シンプルだが、実践はなかなか難しいだろう。私も読んだ本は全部書評を書きたいと心の中では思っているものの、おそらく読んだ本の20冊に1冊程度しか書評を書けていない。
筆者は「精神科医が教える 読んだら忘れない読書術」の中で、このアウトプット方法を色々と提示してくれる。もちろん、「SNSで書評を書こう」と言った当たり前な内容は出てくるが、個人的にピンと来たのが「汚い読み方をしよう」というものだ。つまり付箋を貼ったり、書き込んだり、蛍光ペンを使った読み方だ。
とても印象的だったのが、以下の一節である。
1冊の本から、3行ラインを引ければ、「1500円の書籍の元がとれた」といえるでしょう。
「精神科医が教える 読んだら忘れない読書術」 p.104
たった3つでよいのか、と一瞬思ったが、しかし振り返ってみて、「この本の良かったポイントを3つ上げてみて」と言われて、ぱっと出てくるだろうか? 一番伝えたいメッセージはすぐ出てくるだろうが、じゃあ残りの2点は何だろうか? この「3行ラインを引ければ」というのはとても簡単に見えて、実は難易度が高いのではないか。そしてそれだけ、「3行ラインを引こう、この本から3つ何かを得よう」という気持ちで本に向き合うことによって、その本から得られるものがグンと増えるのではないだろうか。
つまりは「本に向き合う」ことに対する意識の問題である。この重要さを著者は丁寧に説いてくれる。
実際の「本の読み方」や「電子書籍の活用法」はおまけ程度
著者が紹介する「本の読み方」や「電子書籍のメリット」、「紙媒体と電子書籍の両使いのすすめ」はざっくり100ページほど割かれているが、ここは個人的にはあまり目新しいものはなかった。
というのも、前者の「本の読み方」についてはやはり語り尽くされている感があって、全くもって「本を読むのが苦手!読むのが遅い!要点を押さえるのが苦手!」という人からすれば目からうろこかもしれないが、そこまで斬新な内容ではない。あくまでアプローチ的なものである。
ただ重要なのは「速読は意識していない」という点である。それどころか、著者は速読をしたことが一度もないという。速読云々で大事なところをすっ飛ばしてしまうよりかは、いかに丁寧にポイントを汲み取るか、という点に焦点を当てているのだ。
そして後者の「電子書籍のメリット」あたりについては、やはり2015年の本だからか、いささか内容が古い。もちろんこちらも初めてKindleにふれるてみようかな、と考えている人であれば便利かもしれないが、2021年の今となっては今更感溢れてしまう話となってしまった。
まとめ 「精神科医が教える 読んだら忘れない読書術」は正攻法で行く、読書の大事さを教えてくれる良書だった
とても好印象だったのは、この本はよくある「速読で一気に読む!」とか、「こうやれば絶対に内容を忘れない!」とかそういう怪しい本ではなく、とても真面目に読書について分析して、「読書の大事さ」を追求していく。
この本は真理ばかりが書かれているという印象だ。本当に読書が好きで、そして何より、読書によって人生で幾度となく助けられてきた人による、極めてストレートな内容が書かれているのだ。それを享受できるのであれば、ありがたいことこの上ない。
あいにく「読んだら忘れない」域まで私は達することはなさそうだが、改めて読書の良さ、そして何よりも、アウトプットの大事さをこの本を通して再確認することができた。さらに言えば、「もっと読みたいぜ!」というモチベーターになったという気すらする。
この本で勢いに乗って、どんどん読書街道を突っ走っていきたいと思う。