もう、本当に、分かっている。私は「幅広く知識を盛り込んだ本」よりも「ひとつのテーマに沿った本」のほうが好きだ、と。トリビア的に色々な知識を身につけるのは大好きだけれども、それも一つのメインテーマ(例えば会計の歴史とは、とか人類の進化について、とか)に沿っているからこそ好きなのだと。
だから本書は「ビジネスで本当に大切なことだけを手に入れる」とあり、MBAで学ぶような幅広い知識を身につけくというスタンスで、ちょっと私からすると「広すぎる」本だと感じていた。
だけれどもね、手にとってしまうんですよ。だって「学び続けるプロフェッショナルの必携書」とか書いてあるんですよ。私こういうのに弱いんです。
というわけで手にとって見た「Personal MBA」だが、やはりちょっととっちらかっていると言うか、あまりに範囲が広すぎる。だけれども、とても有意義な内容が詰まっている。網羅的に知識を身に着けたい、足がかりにしたい人にはもってこいだろう。特に就職が決まって、仕事を始めるまでの間のあの期間に学生の方に読んでもらいたい一冊だ。
この本はこんな方におすすめ
- ビジネスに必要な知識を身に着けたいが、どこからスタートしたらいいかわからない方
- MBAを取得する予定はないが、どのような知識が身につくのか触れてみたい方
- 仕事に行き詰まった時に、ひらめきのヒントになるような一冊を手元に置いておきたい方
ブックデータ
- Personal MBA―学び続けるプロフェッショナルの必携書
- ジョシュ・カウフマン (著)
- 三ツ松 新 (監修・監修)
- 渡部 典子 (訳)
- 単行本(ソフトカバー)488ページ
- 2012/8/10
- 英治出版
Personal MBA ― 学び続けるプロフェッショナルの必携書
あまりに要素が多い
網羅的な本が嫌いな理由は、本当に大切なことだけに絞っても数があまりに多い上に、それを説明しようとしてもウィキペディア的な無味乾燥な「つまらない」内容になってしまいがちだからだ。
一時的に頭の中に入ってきても、なかなか定着しない。「そっかぁ、それってそういうことなんだぁ」とその時はなるかもしれないが、次から次へとそういう新しいコンセプトが出てくるから、ついていきづらい。
この本も申し訳ないが、本のコンセプト上そういう形になってしまっている。およそ470ページに渡って、ざっくり200ぐらいの重要コンセプトの解説が入っている。ある程度カテゴリ分けされているとはいえ、「順序だって」コンセプトの説明があるわけではない。
「ROI」の後に「サンクコスト」が出てきたりと、「いや、まぁつながってるっちゃつながってるけどさ・・・」みたいな感じだ。
ピンポイントで知りたいコンセプトの解説を読むにはあまり向かない構成だし、だけれども何かちゃんとした流れがあって、それに沿ってコンセプトが展開している・・・とも言いづらい。
とっ散らかっているといったら非常に失礼だが、少しついていけない感じがあるのは事実だ。
「よーし、今からMBAの勉強しちゃうぞー」と本書を開いても、覚えることが次から次へと出てきて挫折してしまうのが目に見える。
内容的には優秀な人の学習ノートというイメージ
私の個人的な意見だけれども、この本は「MBAの勉強をしている優秀な人の学習ノート」という印象を受けた。大事だと見受けられる場所はきちんと押さえているし、本人がその内容をしっかり理解して思い出す上で重要な例を盛り込んでいる。
だけれども、どこか味気ないと言うか、「何かもっとあったのだけれども、削ぎ落としてこの結果になった」みたいな印象を受ける。簡素化されていて、本当に覚えなければいけないことが詰まっているのはわかるのだけれども、読んでいてなかなか頭にすんなりと入ってこない。
人によるとは思うけれども、ある程度のエピソード的な考え方は大事だ。ただ暗記をするのはそれはそれでいいけれども、流れとして捉えて、思い出すための「トリガー」となるエピソードを添えることは大事だ。
なぜ、どうして、という疑問の答えを盛り込んでいくことはより深い理解へと繋がっていくが、最初から最適解を出されてしまうとそれ以上踏み込むことも、あるいは一歩引いて捉えることもできなくなってしまう。このあたりは難しい。
とはいえ、全くエピソードや比喩表現がないわけではない。「キャッシュフロー」の説明などでは、きちんとイメージしやすい形で例が出てくる。
とはいえ、割と内容がストレートなのは仕方がない。「MBA 100の基本」のレビューでも書いたが、この手の本はとにかく内容の多さが勝負なのだ。
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「MBA 100の基本」はビジネスの場面での抑えておくべきポイントを洗い出してくれる、親しみやすい一冊
知識の要約本みたいなものは基本的に私は疑ってかかっている。「これ一冊で高校の数学が全てわかる」とか、「大学四年分の経済の知識を一冊に」とかそういうタイトルは大抵詐欺なのではないかと疑心暗鬼になっている ...
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巻末の読書リストが意外と面白そう
本書の巻末には付録として「学び続ける人の厳選ビジネス書99」というコーナーがある。より深く掘り進めたい人向けに、そのトピックに沿ったおすすめの本が載っている。
本書を足がかりにして、より深い知見を得たい人はこの読書リストに沿うと良いだろう。
注意するべきなのは、ざっくり2012年ぐらいまでの本のリストなので(本書の第1版が2012年発行だからか)、もっとも最近の潮流は捉えきれていないかもしれない。だが一部の分野を除き、少しばかり古い本を読んで時間の無駄になるということは無駄であろうし、あまり気にしなくても良いだろう。
個人的には、この本でかなり多くの分野をカバーできるので、基礎知識的な面ではあまり不安を感じなくてもよさそうだ。すんなりと次の読書へと入っていけるだろう。
もちろん、この分厚い本を持ってしても、ビジネスの全てがわかるわけではないし、当たり前だがMBAで学べる内容を網羅しているわけではない。
「パーソナルMBA」というのは、あくまでも独学のススメ方を考える本書の便宜上のタイトルなのであって、本当にこの本一冊でMBAに匹敵するなんていう事は著者は想定していない。
まとめ これから就職する人におすすめ
本書は分厚いが、このページ数でも紹介している各コンセプトをじっくり解説できているわけではない。むしろ、各コンセプトについて1〜4ページ程度でサクサクと解説を進めていく。
本当に理解するための最低限を紹介しているという感じだ。
さらに言えば、(当然のことではあるが)この本でビジネスにおいて重要な全てのコンセプトがカバーされているわけでは決してない。指標などは本当にメジャーどころしか触れていないし、分野によってわりとムラがあるとも思う。
しかしこの本はそれでもかなり広くビジネスで必要な知識をカバーしている本だと私は思う。当然全てをカバーすることなんて無理なのだし、「何を勉強したらいいか、それ自体わからない」というレベルの方にうってつけだと思う。
少なくともこの本を通読して、内容を100%理解しなくてもよいが、なんとなく各用語などを見て全く「????」という状態にならないのであれば、十分だと思う。その先で本当にわからないものがあれば詳しく調べればいいし、あるいはこの本で説明されてもわからないレベルに複雑なものは、仕事の場面で遭遇しても諸先輩方が解説してくれるような代物だろう。
最低限の知識をみにつける、というよりかは、「未知に備える」という気持ちで本書を手に取るのはよいだろう。
知らない、わからない、そういうものを極力消して「わからん殺し」を減らしていくために使うのがこの本のベストな利用方法かもしれない。
もちろん、ある程度成熟したビジネスマンにも知識の再確認と自身の強み弱みを考え直すという意味ではとてもおすすめだ。
分厚くて無味乾燥かもしれないが、手元に置いておけばきっと心強い一冊だろう。
Personal MBA ― 学び続けるプロフェッショナルの必携書