高度に発達したゲーム世界から技術を現実世界に逆輸入する、という設定のSF。
とはいえ例えば「ソードアート・オンライン」みたいな作品とは違ってゲーム要素はほとんどなくて、AIやシミュレーションといった要素を重視した作品。「ゲームはちょっと」「主人公が最強とかそういう話はちょっと」という人にもお勧めできる「普通の」SF。
全3巻。通して読んだほうが面白いが、1巻だけでも十分楽しめる。
読んでよかった、と素直に思う作品だ。サクッと読める長さなのも嬉しい。
人と話していて話題に詰まった時に「ところでこの世界はあるいは人工知能による仮想世界なのかもしれませんね」と話したりできる。当然引かれるだろうけど。
ロマンがあって、読んでいてわくわくする。長すぎない。きれいに完結する。伏線も回収してくれる。特に文句はない。
この本はこんな方におすすめ
- エキサイティングなフィクションを読みたい方
- 伏線をキレイに回収して、後味が全く悪くない本が好みの方
- シミュレーション仮説やゲーム世界という設定が好きな方
ブックデータ
- セルフ・クラフト・ワールド
- 芝村 裕吏
- 文庫: 323ページ
- 2015/11/20
- 早川書房
SFはよくわからないけどこれは良い
私はSFは全くと言っていいほど詳しくない。
アシモフもハインラインも中学の頃にちらっと読んだ程度でほとんど覚えていないし、一番語れるSFが「スターウォーズ」ぐらいなのだから、SFファンからしたら失笑ものだろう。
だからこの本の内容はもしかしたら二番煎じなのかもしれないし、AIとかゲーム世界とかシミュレーション世界とか語りつくされた内容なのかもしれない。
だけれども、この本が面白いことは事実だと思う。
SFファンから言わせてみれば「いや、ゲームものならこっちのほうが…」というのがあるかもしれないが、それはきっとどんな分野でも言えることだし、「このラーメンも美味しいけどあっちのも美味しいよ」という話であれば「じゃあこのラーメンも美味しいからとりあえずいいよね。今度そっちのも試してみるよ」となるので否定する必要はないと思う。
逆に、そういったディープな世界の扉を開くきっかけになってくれるのであれば、願ってもないことだ。「これが好きならこれも好きなんじゃない?」なんて言ってくれる人を私は求めている。
そうやって、知らないジャンルを開拓することができる人は幸せだ。
気楽に読めて、深く考えられる。
深 く 考 え ら れ る (笑)
と言われそうだし、自分でも何言ってんのコイツって感じだけれども、考えるきっかけになるなら小説でも紙芝居でも歌でもなんでもいいじゃない。
「この世界は、仮想現実かもしれない」なんて中学生ぐらいの時に誰しもが考えてはわわ~ってなるだろうし、ちょっとそういうことを考えるとワクワクする。
でも言われてみれば「ここが仮想現実であることを否定できますか?」と言われたら悪魔の証明みたいなものだし、それもそれで、と思う。
中学生の時にぼんやりと考えていたことが、綺麗にストーリーになっていてわくわくさせられる。
だからと言って子供っぽいということはなく、MMORPG(大人数で遊ぶゲーム)の世界に入り込む、というテーマもよく見るけどしっかりと理由があって使われているから感心した。
ただゲームの世界に入るとか仮想世界に入るとかだったら「ふーん、面白そうだね。でもなんか聞いたことあるね」程度で終わるかもしれないけれども、本書は「仮想現実でコンピューターの速度に任せてどんどん成長していく世界から、技術を逆輸入する」というストーリー仕立てなのでワクワクする。確かに言われてみれば、現実で実験するよりも(高度なコンピューターがあるならば)仮想世界で実験したほうが色々とスピーディに片付きそうだ。
それでいて、キャラクターが魅力的で分かりやすく、サクサク話が進むので読みやすい。
娯楽としての読書はこうあるべき
知らない分野について触れられて、魅力的な登場人物に出会えて、明確なストーリーラインを追えて、ちょっとヒネりや予想外のことがおきて、でも最後は美しく収まる。
The王道という感じだ。
小説を読むなら、私はこういうのが大好きだ。
もちろんそうじゃない本で傑作は腐るほどあるけれども、読んで「読み終えた。よかった。すっきり」という「来た、見た、勝った」みたいな作品は素晴らしいと思う。
私は通勤中にこの本を読んでいたけれども、いやはや通勤時間がとても楽しかった。
1巻を読み終えて、3部作だと知った時の「まだ続きが読める!」という安心感。
3巻を読み終えて、「終わっちゃった…」という寂しさ。
でも、「また数年後、忘れかけたころに読み返したらその時も楽しめるだろうなぁ」という高揚感。
私が求めていたものをすべて満たしてくれて、娯楽としてこれ以上ない。
SF、いいね!
SFの奥は深いと思う。当然だ。
きっと読者のSFファンの中の皆さんは「これが好きだったらこれも・・・」というのがいくつか頭に浮かんでいるのではないだろうか?
そういう足がかりという作品でも、面白いかもしれない。
私はグレッグ・イーガンの「順列都市」は何を言っているのかよくわからなくて読書開始30分で投げてしまったが、今なら読めるかもしれない。
まとめ こういう本を求めていた
結局べた褒めで終わってしまった。
私なりに不満はあるけれども(このキャラクターもっと活躍させてほしかった、とか。これは唐突じゃないか。とか)、手放しでお勧めできる本だと思う。
というか、ライトノベル本当に読みやすいよ。いいよ。
読んでよかった。
人と話していて話題に詰まった時に「ところでこの世界はあるいは人工知能による仮想世界なのかもしれませんね」と話したりできる。当然引かれるだろうけど。でも友達と飲み明かした夜とかには、こういう頭の上をばーっと飛んでいくようなでっかいスケールの話が向いている気がする。
「セルフ・クラフト・ワールド」はロマンがあって、読んでいてわくわくする。
長すぎない。
きれいに完結する。
伏線も回収してくれる。
特に文句はない。