この分厚い「独学大全」が役に立つか役に立たないかでバッサリ言うのであれば、「役に立つ本だ」と言える。しかし、この本の立ち位置をよく考える必要がある。

つまり、独学のために必要なテクニックを説明するのがメインの内容なのだが、それぞれの内容についての「勉強したくなる気持ちを高める」ための文章が挿入されている。
個人的に言わせてもらうと、「紹介されているテクニックは普通」と言わざるを得ない。そして「モチベーターになるか」と言われても、「まぁ普通」である。しかし、そのボリュームは目を見張るものがある。目を通せば「こういうやり方があるのか」とか「そういえばこれは知っていたけど実践していなかったな」といったものが出てくるはずだ。
行き詰まった時に読んでも良いし、やる気がマックスの状態で読んでも良い。そう言う意味では、非常に良著であると言える。
この本はこんな方におすすめ
- 勉強をすることに対してハッパをかけたい方
- 勉強をすることに対してハッパをかけたい方
- とにかく色々な勉強テクニックを学びたい方
目次(タップで開きます)
ブックデータ
- 独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法
- 読書猿
- 単行本 788ページ
- ダイヤモンド社
- 2020/9/29
勉強のやる気があるなら「独学大全」を読むと良い
勉強するためのやる気を出すのが一番難しい、と言う人がいる。私は個人的にはそう言う人間ではない。やる気は結構いつだってある。
むしろ、やる気がない人間はあまりいないのではないだろうか。やる気はあるけど嫌いだとか、やる気はあるけど時間がないとか、やる気を阻害する要因が多い人が多いのではないだろうか。
やる気はあるけどどうしたらいいかわからない、という人もいるかもしれないが、個人的にはやる気があればやり方ぐらいリサーチできそうなものであると感じる。
とどのつまり、この分厚い(700ページ以上!)本を手に取る時点で、やる気に満ち溢れているだろうし、紹介されて「買ってみよ」となる人だって、やる気がある人だろう。
と言うわけで、「やる気があるなら、「独学大全」は手にとって損なし」と言える。

「独学大全」を読めば勉強が完璧にならない理由
結局のところ、勉強というのはA地点からB地点へといくことだ。知らないものを学び、定着させる。とどのつまりはそう言うことである。
よって、それを実践するためには、実際にAからBへと行く事しかない。知らないことについて学んで、それをなんとか定着させるのだ。
その過程については様々だ。暗記しても良いし、実践しても良いし、とにかく何らかの形でAからBへといく。
この本は「AからBへといく方法」以外にも「Bを知る方法」とか「Aから滑り出してBへと方向を向ける方法」とか、そういう形でテクニックが紹介されている。
しかし、最終的には(当たり前のことなのだが)AからBへ行くのはその人自身にかかっている。自動運転されるわけではない。

運転の技法を学んでも、実際に車に乗って運転しなければ何も始まらないからだ。
そしてこの本に書いてあるテクニックが全て最高効率であると言うわけではない。
例えば「知っていることと知らないことを全部書き出してみよう」と言うのは、確かに(論理的には)便利なテクニックだ。知っていることを一旦整理して、それぞれの裏をとって本当に知っていると言うことを確認して、その後わからないことを一つ一つ潰していけば、まぁ確かに確実だろう。
だが、果たしてそう言うことを本当にするか? それを紙に書き出してやっている人はどれぐらいいるだろうか?
言っていることはもっともだし、素晴らしいのだが、実際に行動に移す価値があるかは怪しい。
そもそも独学をする人間のレベルはどう言うものか?
独学といっても、色々あるだろう。受験勉強だってある種独学だし、資格の勉強もそうだろうし、はたまた無所属の研究者だっているだろう。

物理学について学びたいと思った時、「いやぁ文献がないんだよねぇ」とはならないだろう。
よっぽどピンポイントに、ニッチな分野を学びたい場合はどうだろうか? しかしそれでも、文献探しにものすごく苦労するレベルというのは、相当最先端を走っているレベルだろう。
つまり論文発表レベルに行かないと(私の偏見かもしれないが)、そこまでリサーチが必要となるとは思えない。さっとリサーチしても手に入らない情報を必要としているほど高レベルなことをしているのであれば、そもそもよりディープなリサーチ方法を身につけていることだろう。
そんな人に対して、図書館の使い方とか雑誌記事調査の方法とか教える必要があるだろうか?

「はえ〜そうだったのか〜」となるレベルの人間であれば、そもそも「独学大全」に手を出すのか? 不思議だ。
「独学大全」はモチベーターとしては優秀か?
勉強をしていてモチベーションを続けるのは大変だ。エンジンをかけるのは割と余裕でできても、走り続けるのは苦難の技だ。
継続は力なりと言うように、ここは気合がいる。
「独学大全」では各章の初めに、ちょっとした物語が挿入されている。プラトンではないが、師匠と弟子といった体で、勉強について語り合うのだ。
確かに内容的には面白いが、それがモチベーターになるかといったら微妙である。
やる気を奮い立てるものが必要であれば、もっと成功者の自己啓発本みたいなものが必要であろう。そう考えると、この本はやっぱりモチベーターにはならない。
勉強したらこう言ういいことがあるぞ、とか、こう言う成功者がいるぞ、と言う話を通して「よーし自分も!」となるのが(少なくとも私の)やる気を出すための方法だ。
この本の内容を通読しても、「テクニックはなんとなくわかる」が、ではやる気が出るかといえば「この学んだテクニックを試してみたいな」と思うかどうかぐらいの話で、そこは期待できない。
無論、それが目的で書かれた本でないことはわかっている。しかし、「学ぶことをあきらめたくない人のための」とあるのであれば、 もうちょっと啓発的な内容があっても良かったのではないだろうか。
行き詰まった時に「独学大全」を読んで得られるものは何か
勉強に行き詰まったとして、何を得られるだろうか。「独学大全」を通して得られるものは、テクニックである。
学びの動機付けから、学んだものを身に染み込ませるための方法まで、様々な方法を「独学大全」は提示してくれる。
しかしそれらは繰り返すがテクニックにすぎない。著者が今まで実践してきたものや、学んできたもの、読んできたもののエッセンスに違いはないが、それだけで解決するほど勉強は甘くない。

なので「行き詰まってしまった」と感じた人がこの本に手を出したところで、残酷な言い方になるが、何かが身につくかといえば私は甚だ疑問である。
勉強をしていて行き詰まる人は、かなり高度なレベルで行き詰まるだろう。そうでないレベルでの行き詰まりは、おそらくやる気がないだけだ。やる気があってもなお行き詰まるのであれば、相当に難しいシチュエーションだ。
そこから這い出る方法は、きっとこの本ではカバーしきれていない。
またまた身も蓋もない発言になるが、そこから這い出るためのヒントは書物から得ることは難しいだろう。
そう言う意味で、この本は「読み物としては楽しいかもしれないが、あまり身につく内容ではない」といったところだ。
まとめ 「独学大全」は様々な技法の図鑑ではあるが、それ以上ではない
「独学大全」では様々なテクニックが身に付く。
しかしそれは「外資系コンサルが教えるフレームワーク!」とかそう言う類のビジネス本と比べて、何かが明確に違うと言うわけではない。

そこで得られるものは限定的である。「これを試してみよう」と思って試して、定着するのであればそれに越したことはないが、この本で教えられている内容はそこまで驚きの内容ではない。
ちょっと考えればわかることばかりで、繰り返すが、勉強に行き詰まる人間がこれを読んでも何か画期的なものが得られるとは思わない。
批判的なことばかりになってしまったが、それでも私は「独学大全」は良書であると思う。
そんな人がいるかは難しいが、勉強をするにあたって、最初にこの700ページの本を真剣に読み込んでおけば、おそらく生涯にわたって勉強に(テクニック的な意味で)行き詰まることはないだろう。それだけ網羅的に書かれている。
しかし網羅的に書かれているとはいえ、それはテクニック全集に過ぎないのだ。
そこから何かを身につけるためには、結局のところ多大なる努力が必要になるだろう。