私が自己啓発本が苦手な理由は、「優しすぎる」からかもしれない。あなたは間違っていない素晴らしい人間だけれども、ほんのちょっとこうしたらぐっとよくなりますよ! とニコニコしたセラピストに言われているような感じがするのがどうにも気にいらないのかもしれない。完全に個人の感想だが。
だから私は物事をズバッと言ってくれる本が好きだ。「これはこうだから、あなたは間違っている」と言ってくれたほうが「ははぁ、じゃあそこを治すか」となるものだ。
この本の著者はもう気持ちいいぐらいにズバズバと切り込んできてくれる。本の体裁こそよくある自己啓発本で「はいはい、52の成功の秘訣ね」みたいな気持ちになるかもしれないが、いざ読み始めるとなかなかに痛快だ。
こんな方におすすめ
- ただの優しい自己啓発本に飽きてきた人
- ズバッと厳しいことを言ってくれる本が好きな人
- 無意味な悩みからおさらばしたい人
- 人生の指針になりそうなアイデアを求めている人
目次(タップで開きます)
ブックデータ
- Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法
- ロルフ・ドベリ (著)
- 安原実津 (翻訳)
- 単行本(ソフトカバー) 478ページ
- 2019/4/2
- サンマーク出版
Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法
皆が薄々思っていたことを、はっきりと言ってくれる
表紙の煽り文句に「最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法」とあるが、そんなものは嘘だ。確かに様々な分野の研究結果が紹介されていなくもないが、そんなことよりも大事なのは著者の考え方だ。
ここまでズケズケとストレートに考えを放ってくる本はあまり見たことがないかもしれない。まるで単純な算数計算の答えを言うかのように、ズバズバと痛いところを刺してくる。
いくつか紹介しよう。
たとえあなたが、いまの自分の運命に不満があったとしても、客観的に見れば、あなたは実は「途方もない幸運に恵まれている」という事実は頭に入れておいたほうがいい。
現代に生きている人間は、これまで地球上に存在した全人類のうちの「ほんの6パーセント」にすぎない。
・・・自分が、ローマ帝国の奴隷やエジプトの雑用係だったり、明の時代の後宮にいたりするところを想像してみてほしい。そんな境遇に生まれついていたとしたら、あなたの生まれもった能力はどのくらい活かせていただろうか?
本書 p.92より
カレンダーなどで「その日その日をあなたの人生最後の日だと思って生きること」という格言を見たことないだろうか。すぐにでも病院や墓場や刑務所に飛んでいけと言わんばかりの馬鹿げた生き方指南といえる。その日その日を最後だと思わずに、先のことはきちんと考えたほうがいいに決まっているではないか。
本書 p.196より
「世界をよりよいものにする」という目標を掲げる世界経済フォーラムのような組織でさえ、これまでのところその役目を果たせているとはとても言えない。富裕層や権力者との太いパイプを有する世界経済フォーラムですら、客観的に見れば創設以来、何ひとつ達成できていないのだ。
だからあなたも、自分の力を過信しないほうがいい。言ってしまえば、あなた一人の力で難題の解決などできるものではない。
本書 p.280
どうだろうか。私はこのおっさんが大好きだ。
皆が思っていたけど口にしたらまずいだろ、ということをドンドコ話してきてくれる。とはいえ、「Think clearly(はっきりと考える)」というのはこういうことではないだろうか。誰だって少し立ち止まって考えてみれば、上記のことは小学生だってわかる。
でも、なぜわたしたちは不幸を感じるのだろうか?
なぜ、私達はシンプルで(間違っている)格言に惹かれるのだろうか?
なぜ、私達は自分に何らかの力があると思いこむのだろうか?
著者はこの点を踏み込んでいく。
私達が正しく思考するためには何が必要か
著者はズバズバと正論を言っていくが、正論で全てが救えるほど世の中は簡単ではない。それはもちろん著者だって分かっている。「そうなんだけど、そうじゃないんだよ」と大人になると誰しもが思うことだ。
正しいはずのことが虐げられて、正しくないものが跋扈する。それが世の中の常だ。だから私達は道を踏み外して、誤った変なイデオロギーに引っ張られていく。
だが著者は「ちょっと、それは間違っているよ」とトントンと背中を叩いてくれる。そして、どのように人生を送るべきか、「シンプルで実行可能」なアドバイスをくれる。
この「シンプルで実行可能」というのがミソだ。「毎日が人生最後の日であるかのように生きろ」はちょっと荷が重いし、「毎日笑顔でいましょう!」とかも苦しい。著者が指摘するのはもっとプラクティカルなものだ。彼は根本的に、正しい知識を身に着けて物事に当たることを推奨する。
そういう意味では、私が素晴らしいと思った「ファクトフルネス」に通じるものがある。
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「FACTFULNESS ファクトフルネス」は自分のアホさ加減に気付かされる痛快な一冊
本当に面白い本を読んだ。 とても謙虚で、語りかけてくれるような著者の優しい性格がにじみ出てくる素敵な文体で、極めて大事なことを述べてくれる。 この本の帯はなかなか挑戦的で、「賢い人ほど世界の真実を知ら ...
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上にある正論も、それをきちんと理由を含めて理解すれば、余計な心配をしなくてもよくなる。アフリカの子どもたちのために・・・と考えても意味がないと彼は指摘する。とても残酷なように思えるかもしれないが、その心配する時間を仕事に向けて、得たお金を寄付した方が実際に現地に行って学校を建てたりするよりかは遥かに有意義だと丁寧に説明されると、なるほどと思うものがあるのではないだろうか。
テクノロジーに翻弄されないためのマインドセット、質問に「わからない」と答えていい理由、高級品などに対する物欲の根本原因と対策というように様々な人間が抱えがちな不安・ストレスに対して「それはこういう理由で生じているから、こうするとよくなるよ」と処方箋を出してくれる。
それらはとてもロジカルで、ファクトベースで、そしてストレートだ。
「著者のように考えられたら楽なんだがなぁ」と思う時が多々あった。そして著者は「自分のようにthink clearlyするためには、こうしたらいい」とその思考法を分けてくれる。
著者はこの本を「ツールボックス」と呼んだ。
世の中にはあらゆるものに対する万能な回答や思考法は存在しない。どんな哲学を持ってしても、全ての問題に答えを提示することはできない。答えは自ら導かなければならないが、そのためにはやはり道具が必要だ。思考の道具箱、ツールボックスを用意すれば、様々な場面に対処できる。
著者の考え方が合わないと感じるときも
著者の考え方は自分にはちょっと……と思うときもある。52個もツールが紹介されているのだから、合わないものも存在するだろう。
だがそれは道具箱なのだから、考えようによっては当たり前のことだ。
例えば木の板に穴を開けなければいけないとき、あなたはどの道具を使うだろうか。釘をハンマーで打って貫通させても良いかもしれないし、電動ドリルを使うかもしれない。千枚通しみたいなものでゴリゴリ行くかもしれないし、ナイフで地道に削るかもしれない。
どれも「穴をあける」ことはできるから、どれも正解だ。
この本を読んでいると、著者があまりにもズバズバと物事を言うのだから「それは同意できないな」と思うことも出てくる。先の「毎日が人生最後の日だと思って生きろ」という哲学は、人によっては最高の考え方かもしれない。著者はこれをコケにするが、まぁそれも考え方次第だろう。
著者はロジカルにものを考えるようだが、おそらくその根底には、「自分のできる限界を知り、また自分の強みと弱みを知り、自分の置かれた環境を知り、それらを持って物事を考える」ことを根底に置いている。必要以上な幸福を願うのは不幸になりかねない、そういう考え方を持っている。そこは捉え方次第なのかもしれない。
私は自分が恵まれていることを知っているが、意識高い系である以上、より良い何かを追い求めたくなる。そうやって人は発展してきたのだと信じているし、しかし同時にそれを得られる人は本当に限られたごくわずかだということも知っている。
それでもなお、抗うことは悪いことだろうか。前提として「可能性は低い」「そんな高みを望まないほうが、人生はストレスフリー」といったことも分かっているのであれば、きっと著者の言いつけは守れているのだろう。
何も知らないで戦うよりかは、自分が何に立ち向かっているのかを理解したほうが良いだろう。
まとめ 万能な本になるかは、あなた次第
私はこの本をとても気に入った。とてもはっきりと物を言う作者で、ところどころ納得いかないところはあったが基本的には「その通りだね」と頭を縦にふらずにはいられないようなものが多かった。
52の思想がこの本で紹介されているが、良いなと思ったのは10にも満たなかったかもしれない。どこかで聞いたことがあるような、触れたことがあるようなコンセプトがほとんどだし(この手の本は真新しいものが出てくることは逆に少ないだろう)、実践するかと言われたらちょっとわからない。
だけれども大事なのは、自分がやっていることが正しいと認識できることだ。良いなと思わなかった40数個のうち、ほとんどは私が既にやっていることだし、おそらく一般的な人間であれば誰しもが私と同じ感想だろう。
「じゃあ知っていることだらけの本だったのか」「意味がない読書なのか」と言われたらそうではない。
私達が無意識のうちに行ってきたことが、こういう理由で正しいのだと教えられると、とても納得がいく。より強く定着し、自身を助けるツールになると思う。
その再確認と、著者のウィットと歯に衣着せぬ物言いにスカッとすることができるのだから、この本は「買い」ではないだろうか。
Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法