ウォーレン・バフェットの名を知っている人は意外に少ないかもしれない。
オマハの賢人と言われた世界最高峰の投資家だ。何年も長者番付の上位に君臨し続けた、天才である。
あまり日本では馴染みのない名前かもしれないが、少し投資をかじり出すと必ずやバフェットの名前を目にすることになる。
彼の生み出したバリュー投資は一般化しすぎてあまり現代では(そのままでは)応用できないかもしれないが、それでも彼のお金に関する鋭い考察は価値があるものになる。
スノーボールはそんなバフェットの人生に迫る。
この本はこんな方におすすめ
- 世界最高峰の投資家から助言を得たい人
- バフェットの人生を覗き込みたい人
- 自分一人では経験できない、稀有な経験を読書から得たい人
- 「お金」との付き合い方を偉大な先人から学びたい人
ブックデータ
- スノーボール ウォーレン・バフェット伝
- アリス・シュローダー
- 伏見 威蕃 (訳)
- 文庫本 上中下巻 それぞれ約500ページ
- 2014/6/3
- 日本経済新聞出版社
文庫・スノーボール ウォーレン・バフェット伝 (改訂新版)〈上・中・下 合本版〉 (日本経済新聞出版)
この本で投資を学んで金持ちになれるか
結局のところ、みんなが興味あるところはこれだろう。
- この本にバフェットの投資戦略の解説はあるか?
- この本を読めば自分もスマートな投資ができるようになるか?
- 突き詰めたところ、この本を通して自分は金持ちになれるか?
私がこの質問群に答えるなら、答えは「はい」になる。だが勘違いしないで欲しい、この本はバフェットの伝記であり、バフェット自身が書いた投資戦略の教科書ではない。
伝記で何を学べるのだ、と思うかもしれない。
確かに、伝記とマネーの教科書は毛色が違う。というか全く違うように思える。王貞治やイチローの伝記を読んでプロ野球選手になれるのなら苦労はしないのと同じことだ。
だが、こう考えたらどうだろうか。
著者のアリス・シュローダーはバフェットに密着取材をし、数え切れないほどの一次資料に触れ、またバフェット自身から多くの話を聞いてこの本を記した。
つまりこの本を読むことは、あなた自身がバフェットと数週間過ごしたようなものだ。
考えてみて欲しい。
バフェットが自身の考えを語るセミナーがあったとする。2時間程度のセミナーだったとしても、いくらするだろうか?
それがバフェットと一対一でのランチだったら?
ティム・クックとのランチか競売にかけられたことがあったが、ひょっとしたらそれ以上の値段がつくのではないか?
それとほぼ同じ体験が(あいにくバフェットと握手をして一緒にハンバーガーとチェリーコーラを頂くことはできないが)できるのであれば、とんでもない価値のある話だと思わないだろうか。
スノーボールは投資術の本では決してない
この本は伝記であり、トリビア満載で寄り道も満載だ。AならばBで次にCになる、この時Dしてはいけない…なんて感じにロジカルに話が展開されるわけではない。次に何が起きるかあまり予想ができない。ストーリー仕立てだからだ。
そもそも千ページを超えて、日本語版は上・中・下巻に分かれているから、並大抵の本ではないということがわかるだろう。私も読み終えるのに相当な時間がかかった。それだけに脱線が多いし、「そんな情報いらんだろうよ」というようなことにも触れてくる。
とはいえ、全く投資と無関係なわけではない。
そりゃそうだ、バフェットの人生は投資で出来てるようなものなのだから。
失敗した話や、うまく行った話、新しく思いついたテクニックの話や、彼の偉大なパートナーであるチャーリー・モンガーの話などもちろん出てくる。
だが、そこに全てのフォーカスが行っているわけではない。あくまでそれらはバフェットの人生の一部なのだ。
そもそも、バフェットの投資戦略そのものを学びたいのであれば、バフェット自身が書いた投資家への手紙などがある。
これらの方がずっとストレートに、あなたの疑問に答えてくれるだろう。
そしてそれらも書籍化されている。
そこに行き着くまでの道が面白い
しかし「スノーボール」は先程説明したように、そこだけを拾い出した本ではない。寄り道は多いし、投資術を知りたいのであれば不必要だと感じる部分も多いだろう。
この本は、バフェットの人生を切り出したものなのだ。
彼がどのように考えて、どのように生きてきたのか。これからどうしたいのか。それを彼に密着し続けた著者が整理して、書き出していく。ぐっとバフェットが身近に感じられるような一冊だ。
経緯が大事だと思う人間は、この本を最高だと思うだろう。私は結果だけではなく、そこまでの道のりが大好きな人間だ。歴史が好きだから、今現代のことを考える際に、ずっと昔のところから紐解いていくのがたまらない。
そういう意味ではせっかちな人間には向かない本だし、私も正直冗長だなぁと感じるところはいくつかあった。だがそれだけに読み物として非常に面白く構成されているわけで、求めているものがピンポイントなアドバイスでなければ、必ずあなたのためになる本であると私は感じた。
- バフェットが幼少期、どのような人間だったのか。
- 彼はどのようなチャレンジをして、どのようなチャレンジをしてこなかったのか。
- 彼はどのようにして戦略を組み立てて、それを試してきたのか。
- バフェットの最大の失敗は何か?
- バフェットが今後見据えているものは何か?
こういった要素を、点ではなく線で結んでいるのがこの本だ。
全ては一つの大きな流れとなり、バフェットが作り上げた富となっている。
だがそれ以上に、バフェットという人物そのものに魅力を感じてくる。最初はバフェット自身よりも、「そもそもこいつはどうやってこんな金持ちになったんだ!?」という気持ちでスタートしているかもしれない。だが次第に「なんてすごい人なんだ」となり、「バフェットさんのことをもっと知りたい」となってくる。
ちょっとした崇敬の念すら出てくる。
結論 金持ちになりたいなら、バフェットに学んでいい
バフェットは金持ちだ。そしてバフェットの言うとおりにしたら、お金持ちになれるのかといえば、まぁ間違ってはいないと思う。
彼はとても複雑なことを、シンプルなものに落とし込むのが得意な人間だ。
それは稀有な才能だし、簡単に真似できることではない。だがそのシンプルに落とし込んだものを、彼の人生のちょっとしたエピソードから覗き見ることができる。
彼の行動理念は複雑に見えて単純明快で、ともすれば我々にも真似できそうなものである。
そして真似しても結果はすぐに伴わないかもしれないが、人生の教訓に近いものが詰まっているそれは、決して無駄にはならない。マイナスに働くことはない。
その結果としてバフェットがいるし、だがみんながバフェットになれるわけではない。それは誰だってわかっていることだ。
だが、彼は良い生き方を示してくれる。優しく、時に優しすぎるほどに彼は人を導いてくれる。
そして冒頭に戻る。
- この本にバフェットの投資戦略の解説はあるか?
- この本を読めば自分もスマートな投資ができるようになるか?
- 突き詰めたところ、この本を通して自分は金持ちになれるか?
私がこの質問群に答えるなら、答えは「はい」になる。それは、バフェットの人生を見ることができるからだ。
とても長い本だし、時に無駄を感じられるし編集がきちんとなっていない、雑記のようだと感じることもある。
だが必ず、あなたのためになる本だと私は思う。ぜひ、手にとってもらいたい。
文庫・スノーボール ウォーレン・バフェット伝 (改訂新版)〈上・中・下 合本版〉 (日本経済新聞出版)